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支援会話集 フレデリク×ソワレ 支援C 支援B 支援A 支援S 支援C 【ソワレ】 いたいた、フレデリク! 一手、ご教示願えるかな。 【フレデリク】 はい、構いません。 どこからでもどうぞ。 【ソワレ】 では! はあっ! 【フレデリク】 良い動きです… しかし! 【ソワレ】 あうっ! 【フレデリク】 大丈夫ですか、ソワレさん? 【ソワレ】 うん…降参だよ。ボクの負けだ。 ありがとう…ございました。 ………… 【フレデリク】 どうかしましたか? 【ソワレ】 …なぜ、こうもあっさり 負けてしまうんだろうか。 【フレデリク】 あっさり、ではありませんよ。 きわどい勝負でした。 【ソワレ】 けど、ボクは訓練中には 他の奴らに負けたことはなかった。 【フレデリク】 勝負は時の運といいます。 【ソワレ】 うーん… 付き合ってくれてありがとう。 また、強くなったら挑戦に来るよ! 【フレデリク】 はい。お待ちしております。 支援B 【フレデリク】 ソワレさん、どうされたのです? 最近の戦いは、あなたらしくありません。 なにか悩みごとでも? 【ソワレ】 …フレデリクに隠し事はできないね。 なぜキミに勝てないか考えてたんだ。 【フレデリク】 ああ、そのことでしたか。 別に気になさらなくても良いのでは? 私たちは仲間なのですから。 【ソワレ】 でも不思議なんだ。戦う前から… キミにだけは勝てる気がしない。 どうしてなんだろう? 【フレデリク】 ふむ、そうですね… そういえば、自警団の見習いだったあなたに 剣と槍を教えたのは私でしたね。 【ソワレ】 うん。あの頃は、まわりの男たちには 絶対負けないって意気込んでたな… 指南役のキミに会った時、 ぜんぜん強そうに見えなかったのに、 最初の手合せで キミにボコボコにされたっけ… 【フレデリク】 あ、いえ、ボコボコにはしていませんよ。 あれは通過儀礼というものです。 【ソワレ】 あの時は悔しくて 一晩中寝られなかったなあ… 【フレデリク】 …まあそれはともかくです、 原因はその日にあるのかもしれません。 武術の師匠と弟子が戦えば、 最初は弟子は手も足も出ません。 その時の『師匠には勝てない』という 思い込みが、後々まで続くのでしょう。 【ソワレ】 ! じゃあ、 ボクがフレデリクに勝てないのは… 昔フレデリクに ボコボコにされたから!? 【フレデリク】 ですから ボコボコにはしていません。 支援A 【ソワレ】 フレデリク。 さっきの戦い、見てくれた? 【フレデリク】 はい。とても見事な戦いぶりでした。 なにかコツをつかまれたようですね。 【ソワレ】 うん。フレデリクのおかげで… わかったんだ。 女であることがいやで、 男に負けたくなかった自分… キミに勝とうと やっきになってた自分… 【フレデリク】 その気持ちは 悪いことではありませんが… 【ソワレ】 うん。でも、 ボクはその気持ちに囚われすぎてた。 男のキミを打ち負かすことが目的じゃない。 ボクが目指すべき姿は、そうじゃない。 キミに仲間として信頼してもらえる 自分になること… そうなって初めて、 ボクはフレデリクと対等になれる。 【フレデリク】 ソワレさん… 立派になられましたね。 【ソワレ】 本当の自分と、正面から 向き合うことができたんだ。 新しい扉が開いたような、 そんな感覚だった。 フレデリクのおかげだよ。 キミが師匠で良かった。 【フレデリク】 いえ、あなたは もう一人前ですよ。 師匠と弟子の関係は終わり… 今の私たちは対等な仲間です。 【ソワレ】 うん! ありがとう! 支援S 【ソワレ】 うーん… 【フレデリク】 どうしたのですか、ソワレさん? また悩み事ですか? 【ソワレ】 以前、キミに勝てない理由を 考えてたんだけど… 【フレデリク】 おや? その件でしたら もう解決したのでは? 武術の師匠と弟子というものは… 【ソワレ】 うん。 あの時はボクも そうなんだって納得してた。 でも、違うんだ。 この気持ちは…違う。 【フレデリク】 ………? ソワレさん…? 【ソワレ】 キミを前にするとぎこちなくなる… キミのことをいつも考えてしまう… こんな気持ちは初めてだから わからなかったけど… ボクは、 キミのことが好きなんだ。 【フレデリク】 ソワレさん… 【ソワレ】 ごめん、急にこんなこと言って。 でもこの気持ちに決着をつけないと、 ボクはきっと前に進めない。 キミの気持ちを…教えてほしい。 【フレデリク】 わかりました。 それでは… これが私の気持ちです。 どうか受け取ってください。 【ソワレ】 …これって…指輪? ボクの名前が彫ってある… 【フレデリク】 貴方に渡したくて用意したものです。 この戦いが終わった後に、 と思っていましたが… 【ソワレ】 …ボクでいいの? 【フレデリク】 はい。貴方でないとダメなのです。 【ソワレ】 不思議だね。 また、新しい扉が開いた。 しあわせな光が射し込んで、 ボクの心を満たしてくれている… 【フレデリク】 私もです。気がつけば 貴方がいてくれるだけで、 私の心はいつも温かな光で 満たされていたのですから。 【ソワレ】 ……… …フレデリク… 【フレデリク】 これからも、私の光でいてください。 【ソワレ】 はい。喜んで。 【フレデリク】 ありがとう、ソワレさん。 貴方への永遠の愛をここに誓います。 【ソワレ】 こちらこそありがとう、フレデリク… これからもよろしく。
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ラノで読む A.D.2019.7.10 16 20 東京都 双葉学園 商店街 「やめてぇええええええええええええええええええええっ!!」 日の沈む、無人の商店街に―― クロームのひしゃげる音が――永劫機メフィストフェレスの、敗北を告げる音が、響いた。 赤く染まる街は、まるで血に染まったよう。 砕けた鋼の欠片が舞う中――しかし、それは動いた。 「!?」 黒い腕が、鉛の腕を掴む。 永劫機メフィストフェレスが、敗北してなお――永劫機アリオーンの腕を掴みあげる。 「まさか――」 腕に力がこもる。掴まれたフレームがひしゃげる。 永劫機メフィストフェレスの全身に力が入り、敗北してなお反抗の意思を見せる。 そう――たかだか敗北した程度で、負けたぐらいの事で、倒れていられるか! 「まだ、動くなんて……っ!」 必殺必滅の時空爆縮回帰呪法(クロノス・レグレシオン)。それを撃ち放った以上、残された力は無く。 その機を狙い叩いた以上、もはや抗う力も無い。 そのはずだ。そのはずなのに――! それでも、永劫機メフィストフェレスは動く。 残された力が無かろうとも。抗う力が無かろうとも。それでも――心は折れぬ。 そう、永劫機メフィストフェレスは契約者である祥吾の意思を反映する。 祥吾は諦めない、祥吾の心は折れない。 敗北など、すでに幾つも経験している。いまさら黒星がひとつ増えた所で、それはただそれだけの事だ。 それでも―― 諦めなければ―― 心折れなければ―― 「うおおおおおおおおお!!」 吼える。 ありったけの意思を込める。 ああそうだ、確かに罠に嵌ってしまった。だがそれでも戦う。戦ってやる。 理不尽に屈してなるものか。 永劫機メフィストフェレスの腕が永劫機アリオーンの腕を掴み、突き刺さったその腕を引き剥がす。 そしてそのままその腕を振り解き、そして殴りつける。 「っぁあっ!」 永劫機アリオーンは、想定外の一撃を喰らい、バランスを崩して墜落、アスファルトに叩きつけられる。 「ふざけんじゃねぇ、舐めんなよこの野郎ッ! こちとら大昔からいじめられ慣れてんだ! たかだか負け犬(このおれ)相手にたった一回勝ったぐらいで、勝ち誇ってんじゃねぇッ!!」 「な――」 そのあまりにもあまりな祥吾の叫びに、桜子たちは瞠目する。 むちゃくちゃだった。論理も筋も通ってない。 そして桜子は察する。 ああ、要するにこの男は―― 「馬鹿?」 それも筋金入りの。 「さすがだな」 それを見て、直が言った。 「確かに君の心は折れない。だが――」 直が表情を変えずに、冷徹に言ってのけた。 そして、異変は起きる。いや、異変に気づく。 その兆候はすでに起きていた。起きていたのだ。 誠司たちが倒れていたのは何故か。 その答えが、これだ。それは祥吾の身体にも起きていた。 膝を突く。 全身に悪寒が走り、臓腑が冷え、頭痛が疼き、吐き気がこみ上げる。 これは――風邪だ。風邪の症状と同じだ。 それも、激しく重い。 こんな時に……否、こんな時だからだ。 「く――」 風が吹く。 敵のいる方角、風上より吹いてくる風が――病を乗せて来る。 初期位置として、祥吾たちは風下にあった事が、勝負の趨勢を決していたのだ。 時間をかければかけるほど――祥吾たちの敗北は確定的なものだった。 そう、マリオンや桜子の仲間の一人に、病原菌(ウィルス)を使うものがいる。正確には、それを操るのではなく、自分の免疫機能の操作である。それを応用して、自分の体に巣食う病原菌を使うのだ。 そしてそれは空気感染で、祥吾達に襲い掛かり、猛威を振るった。 ものの数十分程度で、彼ら全員の体を侵したのだ。 そう、心折れずとも――身体折れれば、人は脆いものだ。 倒れる。 体折(たお)れる。 どれだけ強き意志で抗おうとも――それを凌駕する、身体の異常。 病気。 苦痛や傷は、意志の力でねじ伏せる事は出来る。だが、病は――無理だ。少なくとも、今この場においては。 ゆえに。 「く――そ――――」 そして、時坂祥吾の意識は、闇に落ちた。 時計仕掛けのメフィストフェレス THE MOVIE LOST TWENTY ――La Divina Commedia―― 第二部【煉獄篇(プルガトーリオ)】 A.D.2019.7.10 17 00 東京都 双葉学園 保健室 菅誠司が目を覚ました時一番最初に見たのは、心配そうな春奈・C・クラウディウスの眼差しだった。 「先生……?」 「よかった、これでみんな無事だよ、うん。本当によかったよ~」 「……っ」 身体を起こす。 そうだ、と誠司は思い出す。商店街の戦いを見守っていたら……急に身体に寒気が走り…… 「私達は、倒れて」 「風邪を引いて倒れたんだよ……事情は皆槻さん達から聞いたよ」 話を聞くと、直たちが春奈に連絡をいれ、保健委員への手配もしたらしい。 「……だけど、これは……」 妙に違和感がある。あれだけの悪寒、体調不良。それが完全に消えている。 治ったとしても、病み上がりの疲労や倦怠感も無い。 そう……あの病気そのものが、無かった事になっているように。 「神無さんが能力で直してくれたんだよ」 その言葉に納得がいく。 そう、先日彼女は確かに言っていた。傷を受けたという時間を消す、というような事を。 つまり、あの攻撃で風邪を引いたという時象を消したということだろう。 「神無ちゃん、大丈夫?」 記憶が確かなら、祥吾一人の傷を治すだけでかなり疲弊していたはずだ。 それを、七人分もなんて…… 「はい、大丈夫です……」 疲労を隠そうと笑顔で返答する神無。 「かなり消耗しているようだけど、命に別状はないよ、みんな」 「そうですか……」 その言葉に誠司は安堵する。 「びっくりしたぜ、本当に。お前らがそろって病院に担ぎ込まれたって聞いて」 拍手が言う。 服装は中華料理屋のエプロンのままだった。着の身着のまま、あわてて飛び出してきたのだろう。 他にも、打ち上げに参加する事になっていた生徒達の姿もある。 敷神楽鶴祁が言う。 「……事情は聞いたよ。大変な事になつているそうだね」 「……そうなんス、なんていったらいいか、とにかくヤバイっスよ」 市原が頭を抱える。市原だけではない。ここにいる全員が同じ心境だった。 仲間が、あろうことか「世界を滅ぼす」などと言われ、そして風紀委員会からの捕縛命令が下り、倒され連れ去られた。 まったく持って、悪い冗談みたいな一方的で、かつ出来の悪い展開だ。 「……どうするの? それでこれから」 遠野彼方が言う。 「どうするって……」 その言葉に、皆が黙る。 判っているのだ、理不尽すぎる。だから助けないといけない、と。だがそれは、風紀委員と敵対するという事だ。 ましてや、風紀委員会だけではない。高槻直たちが動いていた。彼女達は、学園の指令で動く異能者チームだ。つまり…… 「双葉学園と、敵対するってこったろ……」 誰かがそう言った。 学園に敵対する? 在りえない。 だが…… 「必ずしも、敵対するって訳でも……ないし」 そうだ。 時坂祥吾に対する理不尽な待遇、それを緩めるように陳情すればいいだけじゃないか? 何事も力で解決すればいいというわけではない。ましてや相手は同じ人間なのだ。無理に戦う必要は無い。 そう、彼女達が時坂祥吾に行った戦闘行為、それは……時坂祥吾がバカだから、最初から素直に従う事は無いだろうという、正しい判断によるものだろう。 誰だって、お前が世界を滅ぼす事になるから捕まえる、と言ったら反発する。ましてや相手が馬鹿なら当然だ。 それに、直たちの言葉を信じるなら、国際風紀委員会連盟……通称D.A.N.T.E.……彼らから祥吾を守る意味合いもあるという。 それを考えるなら、このまま趨勢を見守るのもありではないか? そう考えていると、ドアがけたたましい音を立てて開く。 「大変!」 息を切らしながら、神楽二礼が駆け込んできた。 いつもの「~っす」口調でないということはね彼女自身本当に焦り、気が動転しているのだろう。 「ふっ、風紀、委員の……先輩に、っ、聞いたけど……」 肩で息をする二礼に、春奈が水を差し出す。 それを一気に飲みほして、二礼は言った。 「時坂先輩、下手したら……殺される!」 A.D.2019.7.10 17 35 東京都 双葉学園 風紀委員特別棟 時坂祥吾が目を覚ました場所は、白い部屋だった。 白い壁、白い床、白い天井、白いベッド、白いカーテン、白い鉄格子。 病的なまでに潔癖なそれは、白い部屋――というより、白い牢獄だった。 「……」 全身がだるい。疲労感と倦怠感。 病み上がりのようだ。いや、事実そうなんだろう。 そして、さらには首と両手に違和感がある。 「……囚人かよ」 そこには、ご丁寧にも手枷と首輪が嵌められていた。 じゃらり、と音がする。 部屋の内部を見回す。 無人だ。ここには自分しかいない。 ならば……とにかく脱出を試みるべきだ。 そして祥吾は、内に在るメフィストフェレスに語りかけようとし―― 瞬間、全身を電流が駆け巡った。 「がぁあああああああああああああああっ!?」 身体が痙攣し、無様なダンスを躍らせる。感電死するほどの威力ではないが、容易に身体の自由を奪うほどの電流。 「う……ぐぇぅ、あ……っ」 病み上がりに加えて電流を受け、祥吾はベッドから床に倒れる。 「異能を使おうとしても無駄よ」 電流の余韻に苦しむ祥吾に、冷徹な声がかけられる。 「……ぁ……?」 首から上を動かして祥吾はその声の方向を見る。 いつのまにか扉が開いていて、そこには三つ編みとめがねの少女が立っていた。 「おはよう。といっても朝じゃないけど。よく眠れた?」 「お、お前は……?」 「束司文乃。風紀委員よ」 見下ろしながら、文乃は名乗る。 「それ」 文乃は手錠と首輪を目線で差して言う。 「超科学研究の産物なの。というより副産物、失敗作ね。魂源力を電撃に変換して敵を攻撃する為の武装として作られたけど、電撃に変換するまでは出来たけどそれをコントロールするのが不可能だった、失敗作」 肩をすくめて、文乃は笑う。 「魂源力を感知して問答無用で電撃に変換するから、違反者達の拘束にもってこいの便利な道具」 「……それでかよ」 祥吾の異能は、永劫機との契約者としての適正、である。そして永劫機を召喚し操る時だけでなく、自信の魂の内にある、メフィストと共有する内的世界へのコンタクトも……メフィへと語りかけるときも、魂源力が働くのだろう。 この戒めは、それに反応して電撃を放ったのだ。なるほど、これでは確かに異能は使えない。 「大変だったようね。あの人たち相手に歯向かうからそういう目に会うのよ」 「……っ、けしかけたのお前らだろうが……!」 身体を起こしながら、祥吾はにらみつける。 「まあ、それは否定しないけど」 その視線を平然と受け流す文乃。 「俺を、どうするつもりだ」 「どうも何も……風紀委員に捕まった素行不良生徒がどうなるかは決まってるわ。誰も手出しの出来ない懲罰施設で矯正するまで奉仕活動よ。そう、誰にも手出しの出来ない場所で」 「……あの世とか言うんじゃないだろうな」 「ある意味そうかもしれないけど、私たちは貴方を殺すつもりなんて最初からないわよ」 読解力無いね、と呆れ顔で文乃は言う。 「どういう事だよ」 「高槻さん達が言わなかった? 貴方は狙われている。ええ、まあそれは私達風紀委員会も確かに貴方を狙ったけれど」 「……は、世界を俺が滅ぼすって? 本気で信じているのかよ、お前ら……!」 「信じてないわよ」 「は……?」 あっさりと否定する文乃。 「まあ問題なのは、貴方が世界を滅ぼすかどうかじゃない。 D.A.N.T.E.が、「時坂祥吾が世界を滅ぼす」と断定してしまった、という事実が問題なのよ。 何故だか知らないけれど、彼らはそれを確定事項としてしまった。 私達はあくまでも、貴方がそうなる可能性がある、ぐらいにしか思っていない」 可能性がある、ただそれだけでこんな仕打ちもひどいものとは思うのだが。 「実際に、予言系能力者の何人かはそういう話を出してきている。 残念ながら証言もあるの。だから風紀委員も貴方を拘束した。 でも重ねて言うけれど、私達は、同じ学園の生徒をそんな理由で殺すつもりは無い。 貴方が世界を滅ぼすというのなら、滅ぼさせないように矯正するだけだから」 「で、矯正施設に放り込むってかよ……」 いい迷惑だ、と祥吾は吐き捨てる。 上から目線の圧倒的正義。なるほど、今まで風紀委員のお世話になったことは無かったが、なるほどどうして厄介なものだ。 一般生徒から嫌われ、煙たがられるのも頷けるものである。 その祥吾の反感をよそに、文乃は言った。 「安心していいわ。私たちは貴方を守ってあげる」 A.D.2019.7.10 18 00 東京都 双葉学園 保健室 「それは本当なの?」 春奈の問いに、二礼は答える。 「はい、風紀委員棟で誰かが話してたのを確かに聞いたっすよ……」 それが誰かはわからないが、確かに話していた。 しっかりと聞こえたのだ。まるで自分に教えているかのように。 「……不自然ね」 「まあ、確かにそう思うっすけど……」 それを差し置いても、捨て置けるような事ではない。明らかにこれはやりすぎだ、と二礼は思う。 風紀委員として、D.A.N.T.E.の恐ろしさは知っている。 あれは狂人の類だ。その集まりだ。双葉学園の風紀委員であの危険度にためを張れるのは、風紀委員長のデンジャーぐらいだろうと思う。 強さではなく、危険性として。 正義のためならば、殺人も平気で是とするその思想。 二礼も一部では外道巫女と呼ばれるほどに大概に無茶なほうだが、次元が明らかに違う。 「ていうか、それならなおさら考えてるヒマねぇだろ……!」 孝和が声を上げる。 「状況が変わってきたんなら……もう学園に対して喧嘩がどうかとか、気にしてる暇じゃない」 「そうっスよ、後のことは後のことで、今はそのダンテとかに時坂先輩を渡さないことが大事っス!」 市原も言う。 「……そうね、うん」 春奈も決意する。 このまま生徒を死地に黙って向かわせる訳にはいかない。 そしてそのために生徒を死地に向かわせるも同然の、この結論に対する矛盾。 学園の教師としてあるまじき行動かもしれない。だけどそれでも…… 生徒達の信念を曲げてはいけないと思う。 それがもし間違っているのなら、全力で正すのも教師の仕事だ。だが、今回は明らかに、風紀委員達の軽挙妄動で勇み足だ。 おかしい。 春奈の中の何かが、そう訴えかけていた。 「私も、サポートする」 「っしゃあっ! せんせーさんがいれば百人力っス!」 春奈の言葉に、市原がガッツポーズをとる。 「うるさいよ、市原」 緊張感がない、と嗜める。だがそう言いながらも、誠司の顔も緩む。ああそうだ、やはりこういう緊張感の欠けているような空気がいい。 悲痛で悲壮なのは、この双葉学園の生活には似合わない、と思う。 「なるほど。ええと、じゃあ僕はどうすればいいかな」 「遠野先輩は、お気持ちだけで十分っスよ。相手は風紀委員で、異能者もたくさんいるっスからね。 美味いジュースでも買って待っててくださいっス!」 サムズアップで決める市原。 「じゃあ俺は美味いチャーハンでも……」 「あんたは一緒に来るっすよ」 二礼が拍手に言う。 「ええ、いや俺だって心配だけどよ、俺は異能が……」 敬が口ごもる。 彼の名誉のために言っておくならば、決して敬は臆しているわけでも、祥吾が心配でない訳でもない。 ただ敬は自らを弁えているのだ。 彼は異能者ではない。並みの一般人よりは強い程度には魂源力が確認されてはいるが、能力としての発現も見られないのだ。 そして、他の異能者が何人もいるのであれば、自分が出張っても逆に足を引っ張るのではないか――そう思った。 相手がただのラルヴァや異能者なら、敬とてここまで考えない。だが相手は危険すぎる。自分が軽々しく出ることで、より危険に仲間を巻き込むかもしれない。 だから敬は、彼にしては珍しくそこまで考えて―― 「あの」 神無が言う。前かがみで、それは胸を強調するようなポーズで。 「一緒に来てくれたら……挟んであげます」 「俺に任せろ!」 一発だった。 「……あれはあなたの入れ知恵?」 真琴が、二礼に聞く。 「くっくっく、何の事だかわかんねぇっすねぇ」 「神無さん、自分が何言ったか判ってないと思うんだけれど」 「別に何で何をはさむかなんて言ってないっすよ。アレが下世話な事言い出したら、万力で挟んでやればいいだけっすよ?」 「……」 成るほど、外道巫女と呼ばれてるのは伊達じゃないな、と真琴は内心思った。 きっとこんな感じでずっとからかわれ続けたんだろうな、今までも、そしてこれからも。 だが、真琴は気づいていなかった。 傍から見たら――孝和に対する真琴もまた似たようなものだと。 まあそれは、この場では本当に心からどうでもいいことではあるのだが。 「まあ、それはともかく、だ」 孝和が言う。 「あいつは、悪い事なんてしてない。 これから世界を滅ぼすかも知れない? そんなので捕まったり。ましてや殺されたりしてたまるか」 その言葉に全員が頷く。 「そうだね。やってもいない罪を償う事なんかない。罪に問われる謂れも、罰を受ける責任だってないよ」 遠野がそれに続く。 「全くっス。絶対に助け出すっスよ」 そう、絶対に助け出す。 A.D.2019.7.10 19 00 東京都 双葉学園 第八封鎖地区 双葉学園には二十年近い歴史があるといわれるが、それは実は誤りである。 確かに教育機関としての歴史は十八年だ。だが、その人工島としての歴史はもうすこし長い。 様々な計画、思惑が絡み合い作られた人工島。それは一説には、ラルヴァの増加を予見していたものが関わっていたと言う噂もあるが真実は定かではない。 だが、学園関係以外にも様々な施設がかつて存在していたのは周知の事実である。その全ては現在は学園関連施設、研究施設に置き換わっているか、あるいは廃棄された跡が残るのみだが。 そしてそういった廃墟は危険なために封鎖されている事も多い。 そういった廃墟を、学園やその他の組織が秘密裏に別の用途として利用している、というのは……都市伝説レベルの噂でしかなかったが。 しかし、覚えていて欲しい。 都市伝説とは、根拠があるからこその都市伝説だ。 火の無いところに煙は立たない……というあれである。 いわく、外部の組織……聖痕やオメガサークルなどの中継基地がある。 いわく、醒徒会の盗撮写真などを高値で取引している闇マーケットがある。 いわく、潰れたはずの違法異能研究機関が未だに存続している。 そして、いわく……風紀委員会の特別矯正施設が、そこに存在している。 「ただの噂かと思ってたけど」 真琴が周囲を見回しながら言う。 なるほど、典型的な、放棄された廃墟だ。こんな所まであるのだから、双葉学園も広い物だと思う。 「実は私も噂程度に思ってたっすよ、そういうの。まあ見習いだから知らされてなかったのかもしれないっすけど……」 それにしたって胡散臭くて、怪しすぎて…… 「ゾクゾクくるっすね」 「いやそれはどうかと思う」 気持ちはわからないではないが。 「ん、なんでしょうあれ、ねぇお姉さま」 何故かついてきている米良綾乃が、前方を指差す。 本当に何故ついてきているのかは判らないが、戦力は多いほうがいいだろうと動向を許可した。 というか許可しなければ無理やりついてこられて引っかき回されるのが目に見えていた。 「どれだ」 「あれ、あの……フェンスの所に」 見ると、ぐるりと広く廃墟を囲むフェンスがある。有刺鉄線でぐるぐる巻きにされた、いかにもという立ち入り禁止のフェンス。 そのフェンスの中に、鉄格子の扉がひとつ。 扉の上には、鉄の板に碑文が刻まれていた。 Per me si va ne la citta dolente, per me si va ne l etterno dolore, per me si va tra la perduta gente. Giustizia mosse il mio alto fattore; fecemi la divina podestate, la somma sapienza e l primo amore. Dinanzi a me non fuor cose create se non etterne, e io etterno duro. Lasciate ogne speranza, voi ch intrate 「なんて書いてあるんでしょうか? これ」 それを見て鶴祁が言う。 「これは有名だよ。神曲に出てくる、地獄門の碑文だな。 “我を過ぐれば憂ひの都あり、 我を過ぐれば永遠の苦患あり、 我を過ぐれば滅亡の民あり 義は尊きわが造り主を動かし、 聖なる威力、比類なき智慧、 第一の愛我を造れり 永遠の物のほか物として我よりさきに 造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、 汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ” ……そう書いている。脅し文句にしては陳腐だな」 鶴祁が碑文を朗読する。 「脅し文句っつーか、研究施設跡には似つかわしくない文面ですね、これ。 でもお姉さまとなら地獄の底までひぁうぃごうです!」 「そうか、頼もしいな」 綾乃の熱烈アプローチを素で受け流す鶴祁。たぶん判ってないのだろう。 「……上等じゃないか」 拍手がそれを聞いて拳を握る。 「要するに、ケンカ売ってる訳だ」 「意訳バリバリだなそれ。ま、合ってるか」 和孝は、その鉄格子の前に立つ。 「ボロボロだな……っと!」 言いながら、鉄格子を蹴破る。錆付いた鉄格子は耳障りな音を立てて転がった。 「行きましょう」 春奈が促す。 一同はフェンスをくぐり、先へと進む。 「止まれ」 廃墟の風に乗って、声が響いた。 「……!」 その声に身構える。 「……皆槻さん」 春奈は声を硬くする。 正直、会いたくなかった。ここで立ちはだかるのが、たとえば大人の警備員だとか、外部の人間だとか、そういった展開であればどれだけ気が楽だっただろうか。 だが、春奈の予測は、残酷にそして冷徹に、実現した。 生徒を率いて生徒と戦う。なんというふざけた悪い夢だろうか。 だがそれでも、選んだのは春奈自身だ。避けられない戦いなら、止められぬ争いなら、せめて双方に被害のないように、最短で決着をつけさせる。 そのために、彼女はここに立っている。それが信念だ。 そして――信念なら、おそらく春奈たちの前に立ち塞がる彼女達もまた持っているだろう。 「お揃い、か。うん、しかしあれだね、なんだか私達が悪役のようだ」 直は苦笑する。 「そう思うなら、どいてくれると嬉しいんだが」 敬が一歩前に出て言う。 「それは出来ないな。これも仕事だ」 「仲間を売り渡す事がかよ!」 「違うな。世界を守ることだ」 クレバーに言い放つ直。 だが直とて、本質的には冷徹ではなく、むしろ熱い方だ。本心では常に戦いを望み、強者を欲している。双葉学園に来たのもそのためだ。 そして世界を守るために弱いものを犠牲にする、などという行為・思想は彼女の最も嫌うことである。 本来の彼女なら、むしろ風紀委員や双葉学園そのものにその拳を向けてもおかしくはないだろう。 だが今回は、放って置けば多くの弱い者達が傷つき、死ぬだろうということを理解しているし、それに彼をこの先の矯正施設に入れる事は時坂祥吾のためでもあることもまた理解している。 己の性質を理解し、鋼の心で律する。それが高槻直という人物だ。 ありていにいえば、「大人」であると言ってもいい。 そしてその態度は、敬や和孝たちのような……いわゆる熱血少年なタイプにとっては我慢ならないものでもあった。 「だったら……コレで語るしかねぇってことか」 敬は拳を掲げる。 「そういうことだな」 直もまた、拳にブラスナックルを嵌める。 「あと、言わなくても当然の事だが……私たちだけじゃない」 その直の言葉によって召喚されたかのように。 廃屋の屋根を砕き、3メートルほどの鋼が舞い上がる。 「永劫機アリオーン……やはり……!」 「彼女達もいるということっスね」 「そういう事だ」 量産型永劫機にマリオンの魂を付与し完成させた桜子とマリオン。 そして彼女達が居るなら、夕刻の戦いで皆を病気にさせたその原因であろう、ヘンシェル・アーリアもまたいるはずだ。 その三人がいるなら、彼女達とかつて行動を共にした他の四人もいると見て間違いないだろう。 そしてその通りに、七人が姿を現した。 皆槻直、結城宮子、そして彼女たち七人。想定どおりのメンバーだった。 夕方の戦いのときに確認された人物とそこから想定される人物たち。 そう、想定どおり、だ。 ここに赴く前に、話し合ったとおりに…… 『……作戦を立てるよ。あなたたちの言うとおり、相手が高槻さんたちのチームとフリージアさんたちのチームなら……確かに厄介だよ。 だけど、彼女達は、特にフリージアさん達は、悪い意味で有名だったから』 彼女達は、かつて双葉学園に対して叛旗を翻した過去を持つ。 その仔細もまた生徒達には伏せられているし、春奈自身もそこを突くつもりは無い。 だがそれでも、その事実は有名である以上、そこを利用する。 不良生徒が、特に異能者が醒徒会や風紀委員会によって補導されたあと、「反省を促すための奉仕活動」としてラルヴァ討伐などに参加させられる事はよくある事である。 そして得てして、そういう生徒達は「醒徒会の犬」「風紀委員の犬」となってしまった境遇に対して不満と怒り、そして屈辱を覚えている事が多い。 彼女達もまた、事件を起こしその結果として風紀委員たちの下で今回の仕事をしているのなら…… 「ぷふー」 彼女達を見て、二礼が噴出す。 「?」 その姿にヘンシェルたちは怪訝な顔をする。 そして…… 「負け犬がいるっすよねえ、見て見てホラ! 学園にケンカ売って負けて尻尾振ってる負け犬!」 神楽二礼の悪口が、炸裂した。 『挑発……っすか?』 『うん。あの子たちの一番危険なのは、まず南雲小夜子さんの暗示能力。 それを無効化するために、意識を引き付けないといけないから……』 そこで小細工を弄したところで、カテゴリーFとして苛められてきて、そして今なお苛められ続けている彼女達に効果は薄いだろう。 ならば逆に単純なほうが効果が出る。 そこで、拍手敬推薦、悪口言わせりゃ天下一品と評判の彼女の出番、と言うわけだ。 「ねー聴いたっすかおくさーん! 盛大にテロ起してズタボロに負けたそうですわよー!」 大仰に肩をすくめ、口に手を当てて大声でしゃべる二礼。 「負けるだけならまだしもそれで風紀委員の使いッ走りたぁ、プライドねーんすかねー?」 「……っ!!」 そのあまりにも馬鹿にした口調言動に、七人は怒りに息を呑む。 「何も、知らないくせに……ッ!」 「知るわけねーっす。知って欲しけりゃ説明すればどーっすかー? 百文字以上五十文字以内で提出してくださいっす。読まねーけど。 だいたい言いたい事があるなら口で言えばいいのに短絡的にテロに走るなんてそれでも文明人っすか? もしもこの世にぱんつがなかったら好きなあの子にどうして会いに行こうさよなら文明っすか?」 「馬鹿にして……!」 「事実をありのままに言うのが馬鹿にすることなんっすかふーんへーんほほーん」 (ひでぇ……!) 今、みんなの心が一つになっていた。 学園に歯向かう、それは並大抵の事ではない。今の自分達が仲間を助けるために決死の決意を決めたように、彼女達にも守るべきもの、貫くべき意志、果たすべき願いがあったのだろうとは誰にだって想像がつく。 無論、二礼本人にも。 (まあ、だからこそ効果的なんすよねぇ) 自分が正しいとと思っていようと、過ちを犯したと反省していようと……どちらにしても、それは本人にとってみれば聖域だ。 それを突かれて平然とできるなら、本人達にとっては些事と変わりない。 そして……双葉学園に牙を向く決意を固めさせるほどのそれは、彼女たちにとっては本当に大切なものだろう。 だからこそ。 「力づくでモノ言わそうなんて、所詮はその程度のテロごっこなんすよねーぇ。だから負けてあっさりと醒徒会や風紀委員に尻尾振って宗旨替えできる。いやその変わり身の速さはソンケーするっす」 徹底的に、小馬鹿にし、嘲笑した。 そして当然、それを看破できるはずもなく、彼女達は激昂する。 『ほんの少しでもいい、挑発して主導権をこちらのもの出来れば……』 先手必勝。それで布陣は揃う。 『彼女達の能力と戦い方は記録されてる。そのデータを元に作戦を組めばやっつけられるよ』 そして、金剛の皇女の真価が、ここに発揮される。 たとえ、大規模ラルヴァ戦でなく、その異能のリミッターが解除されなくとも…… 春奈・C・クラウディウスのその真価は、その作戦能力と指揮能力にあるのだ。 「うおおおおおおおおおおっ!!」 そして想定どおりなら、なによりもまして先手を打つ事が最低条件。 全員が散る。 分散する理由はただ一つ。 南雲小夜子の異能をまず封じる。 その彼女の異能とは、「視界内の生物を暗示下におく」ことだ。 精神支配系の異能力。これは一番に封じておく必要性がある。 そこで、小夜子が登場した瞬間にとにかく挑発する。 そして気を引きつけつつ、自分達は分散する。この場所は廃墟なので、隠れる場所には事欠かない。つまり、視界に入らなければ、視認さえされなければ――その支配は防げる。 「っ!」 その作戦に気づいた九十九唯は、必死に心を落ち着け、そして異能を発動させる。 「……呪詛諸毒薬 所欲害身者 念彼観音力 還著於本人」 陰陽道斑鳩流玄武、奇門遁甲の陣。 強力無比な結界の術だ。 おそらく――小夜子の異能に対抗して分散した以上、次の手は、その小夜子を潰しにかかるだろう。 ならば彼女を結界で守ればいい。そうしておけば、視界内に入る相手を暗示下における。 無論、相手も歴戦の異能者たちだ。精神支配系の異能にそう易々とかかってくれるとは思えない。 だが、それでもこの切り札があるとないとでは大違いだ。ゆえに鬼札は守らねばならない。 そして同時に、仲間達の行動を阻害しないために―― 結界は最小限。自分と小夜子だけを覆い、発動させた。 そしてそれは当然ながら、春奈も織り込み済みだ。 ゆえに、彼女がとった作戦とは―― 「行けぃっ」 「了解ッ!」 真琴が和孝に触れる。 瞬間転移の異能で、和孝を跳躍させる。 その場所とは―― 「えっ」 小夜子が素っ頓狂な声をあげる。 その声に唯たちが気づいたときには、すでに遅かった。 結界を通り越し、その内部に和孝は転移していた。 なるほど、いかに強固で、通り抜ける事が叶わぬ強力無比な奇門遁甲の陣も―― その内部に瞬間転移するならば、その壁は意味を成さぬ。 そして、和孝の行動はすばやかった。 「ごめんなっ!」 小夜子の首に両手を回し、極める。いわゆるチョークスリーパーホールドだ。 「……っ!」 首の脈を押さえて血流を止め、脳に酸素が行かないようにして昏倒させるプロレス技である。 後ろから極めてしまえば、視界内に入る事も無く、洗脳される心配も無い。 そして、締め落とすまでの時間は、確かに和孝は無防備では在るが――それは奇門遁甲の陣が逆に守ってくれる。 そう、小夜子のみを確実に守ろうとした防御結界を敷いた事が、唯のミスだった。 それに気づき、結界を解き、救出に動くまでの数秒間―― それで十分。それだけあれば、和孝は女の子一人をシメ落とすぐらい造作も無かった。 「――あ」 かくん、と人形のように小夜子の身体から力が抜け落ちる。 「よくもぉっ!」 仲間を倒されフリージアが激昂し、ヘンシェルが弾かれたように拳を振るう。 だが遅い。 誠司と市原、レスキュー部の二人が走り、ヘンシェルとフリージアに襲い掛かる。 「だあああっ!」 振るわれる鉄棍と飛び蹴り。不意を突かれ、そのまま四人はもつれ合うように風下へと転げ落ちる。 「っ! 二人ともっ!」 そしてそれを追おうとする、永劫機アリオーン、そしてマリオン達。 だが宙を滑るその機体に肉薄するのは―― ――天地は万物の逆旅にして、 光陰は百代の過客なり。 言葉が響く。 それは呪文。それは聖約。それは禁忌。 そう、紅玉懐中時計に封印された時計仕掛けの天使の機構を開放するキーワード。 而して浮生は、夢の若しなり――! 力が、爆現する。 全長3メートルの巨体。 チクタクチクタクと刻まれる真紅のクロームの巨躯。 流れるような流線型のデザインは、流麗にして苛烈。 各部から露出した銀色のフレームが規則正しく鼓動を刻む。 まるで羽衣のような飾り布が、燃え上がる陽炎のように揺らめき、その美しさを際立たせる。 それは大地の力を秘めた赤き怒り。 これこそが、その危険性により計画凍結・破棄された、時計仕掛けの天使(クロックワーク・アンゲルス)―― 「永劫機(アイオーン)……アールマティ!」 桜子がそれを見て叫ぶ。 「そうだ。君達のと違い、純然たるオリジナルだよ」 「……っ、マリオンっ!」 ある意味、ここにマリオンは二人いる。量産型永劫機の機体に彼女の魂を同調させて生み出したアリオーン。 そして、もう一人、桜子純正のヒエロムスマシンのボディに魂を宿した彼女。 二人がかりでなら、恐れる事は無い。永劫機メフィストフェレスとて追い詰めたのだ。 だが―― 「私を忘れてもらっちゃァ困るっ! 愛の炎がこの身を燃やす、メラメラ中学生米良綾乃、ここに推参ッ!」 鶴祁とて、また一人ではない。 「綾乃君、彼女は君に任せる」 「いぇっさーお姉さまっ!」 そして、アールマティ。彼女にもまた当然ながらその人格が存在する。 「往くぞ、アールマティ」 『はい、お嬢様』 故に、三対三。双方共に、相手にとって不足なし。 かくして分散された中、直と宮子は眼前の敵に集中する。 そこに立つのは、敬と二礼だ。 「あらあら、バラバラっすね。いいんすかね、戦力分散っすよ?」 「構わないさ」 その挑発に、直は拳を掲げる。 「結果は同じだ」 その眼差しに迷いは無く。 (あちゃあ、やりにくい相手っすねぇ、この人) 二礼は嘆息する。 この手の相手に、挑発などの精神攻撃は効かない。良くも悪くもまっすぐな相手。 手加減も何もなしに正面からぶつかってくるだろう。 「俺がやる」 敬が前に出る。 拍手敬は肌で感じる。目の前の相手は強い。女だとか、乳だとかは関係なく、強敵だ。 本気の全霊でかからねば――打ち破れないだろう、と直感する。 「いい気迫だ」 その敬の覚悟を肌で感じながら、直は笑う。 「そっちこそ」 敬は笑える心境ではなかったが、それでも答える。 「いい風が、吹きそうだ」 「私達は、どうしよっか」 「そうっすねぇ……」 宮子は、治癒系能力者。 一方二礼は、神の召喚というもので、どちらも補助系の異能と言ってもいい。 治癒能力は触れねば使えぬし、二礼の力も戦場で行うには時間もかかりすぎるし隙も多い。 故に…… 「まあ、無駄に潰しあってもね。私は、ナオに賭けるわ」 「そっすね。まあ私は賭けないっすけど」 二礼は相変わらずだった。 風が吹く。 荒廃した空気をはごんで来る。 春奈は、その風の中、教え子達の戦いを見守っていた。 「みんな……がんばって」 春奈のやるべきことはもうない。 あとは、自分の生徒達を信じるのみだ。 なるべく傷つかないように、と。それは偽善者なのかもしれない、と春奈は自重する。 だってそうだろう、どれだけ言い繕おうとも、この地に生徒達を導き、ぶつけ合わせたのは自分だ。 「先生……先生は、悪くないです」 傍らで、神無が言う。 「……」 その言葉に、どう答えていいものか、春奈はわからない。 悪いのは誰か、悪いのは何か。何が正しくて間違っているのか。 そんなこと――わかろうはずもない。 でも、それでも。 「大丈夫、だよ」 春奈は傍らの教え子に言う。 「……必ず、みんなで帰らなきゃ」 「……はい」 双葉学園第八封鎖地区――地獄門。 一切の望みを捨てた者たちが立つ事を許されるその地で、 今、総力戦が始まった。 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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ラノで読む ◇島内広報用スピーカ各所 「ピン♪」 「ポン♪」 「パン♪」 「「「♪ポーン♪」」」 帰りのホームルームも終わり学園生達が岐路につく頃。 気象庁による梅雨入りの発表というそれだけでも気が滅入るというこの時期、双葉島内の各所に設置された区の広報用スピーカから突然、あまりにも不快で耳障りなハイトーンボイスが放送された。 「「「カエルの時間をお知らせします」」」 そのふざけたアナウンスが双葉島全域に響きわたると同時に、それが意図的なのかそれとも偶然なのか、丸一日どんよりと上空を覆い続けていた雨雲がついに活動を開始した。 まるでバケツをひっくり返したような土砂降り。 そして―― ◇双葉区役所広報課通信室 そのあまりに急な出来事に、区の職員は慌てふためいていた。 「島内の通信関係全回線が何者かにジャックされました!」 「広報用スピーカは完全に向こうの手に落ちました。こちらからの外部モニタもシャットアウトされてます!」 「まさか、夏騒《サマーノイズ》の仕業かっ!?」 「いえ、記録されている過去のパターンとは異なります!」 今回の騒動が夏騒《サマーノイズ》ではないというオペレータの回答に、室長が重い腰を上げた。 「ならば……全回線の接続を一時強制遮断、コードを書き換えろ」 「――ダメです、こちらからのアクセスが受理されません!」 「復旧コードにも応答ありません!!」 「なっ……いったいなんだというんだ」 「恐らくは……その何者かによって物理的に乗っ取られた可能性が強いかと思われます」 「ということは、これはやはり『新種のラルヴァ』によるものですかね……」 彼らは曲がりなりにも双葉島を管轄にもつ役所の職員である。対ラルヴァ戦におけるマニュアルを始め、また外部からの通信妨害や傍受などに対応できる設備、そして技術を持ち合わせているという自負はあった。 しかし、それらが機能されないまま事ここに至る。 「……あ、外部モニタ回復! 画像表示、出ます!」 復旧したモニタに表示された外部の映像はこの土砂降りの中、区役所前の通りを写したものだった……が、その道路一面に広がる緑と茶色の斑点が目に付いた。 「……いやぁぁぁあ!!」 それが何かを判別すべく映像をズームした女性オペレータが突如大声で悲鳴を上げた。 「どうした!?」 「かえっ……かえっ…………蛙ですっ! 何百何千という蛙が道路一面に……うわきもっ!!」 職務中とはいえうっかり本音が漏れてしまっていた。 オペレータの操作により他の場所の映像へと切り替わったが、その全てにおいて大量に発生した蛙が点在していた。 特に酷いのが広報用スピーカの施設だった。通信装置は完全に沢山の蛙によって覆い尽くされ、中でも特に大きな蛙がむき出しになったケーブルと自身とを繋いでいたりとやりたい放題だった。 「ジャックされた放送でも『カエルの時間をお知らせします』と言っていたんだよな……」 通信室内は騒然となった。 ◇双葉島内某所? 「わーい、雨だ」 「うれしいな」 「もっと降れー」 島の全域においてケロケロケロッという鳴き声が止めどなく響き続けている。 「お出かけしよう」 「もっと高いところへいこう」 「僕たちの声がみんなに届くように」 指先サイズや手のひらサイズの仲間を引き連れ、巨大な身を持った三匹の蛙が高台を求め島内を進軍する。 と、彼らの内の一匹が島の中心に位置する建設物群を指差した。 「あそこへ行こう」 「あの天辺を目指そう」 「あそこならきっとみんなが気付いてくれるはず」 彼らのボルテージが上がり、鳴き声がどんどんと大きくなっていく。 「いっくぞ~!」 「ケロッ」「ケロッ」「ケロッ」 「「「ケロ~~!!」」」 雄叫び(?)をあげて、たくさんの蛙と共にぴょこぴょこと飛び跳ね速度を上げる。 ――目指すは双葉学園校舎棟の屋上だ。 ◇スィーツ&ベーカリーTANAKA 「うわー何これきもいねぇ。足の踏み場もないよ」 学園からの帰り道、突然の雨に降られた鈴木《すずき》彩七《あやな》は、相方の田中《たなか》雛希《ひなき》の両親が経営する店に寄り、雨宿りをしていた。 「蛙ってそういえば久々に見たけど、これってただの蛙が偶然にこれだけの数で集まっただけなのかな」 窓の外を眺めながら、店内のテーブルに頬杖をついた田中がため息混じりにボソリと呟く。 ガラスの外はいつの間にか何処からともなく現れた、ぴょこぴょこと飛び回る蛙によって地面が見えないくらいに埋め尽くされている。 「う~ん、さっきの変な放送が関係してるなら誰かのイタズラか……それとももしかしてラルヴァの仕業?」 その田中と対面で座っている鈴木がケラケラと答える。 「まぁどうでもいいけどさ……雨は仕方ないにしても、店の周りにこんなに蛙が溢れかえってちゃ商売あがったりだわ。誰も表《おもて》を歩いてないじゃない」 頬杖をつきテーブルに突っ伏したままの田中が呻く。 彼女らが学園から戻ってから一時間以上は経過している。その間に来店した客は0人。通常ならば現時点である程度捌けているはずの商品が未だに山と積まれていた。 「この時期は日持ちしないから当日中に売れてくれないと困るのになぁ」 彼女らにとってこのありえないような非現実もまた現実世界の延長なのだ。 ……と。 窓の外を眺めていた田中が、商店街を闊歩する異様な集団に目を見張った。それはおそらく牛や馬よりすら一飲みにしかねないほどの巨大な蛙が三匹。 蛙たちは巨躯でありながら軽快にぴょんぴょんと商店街を抜け、学園のある方向へと消えていった。 「なんじゃ、ありゃあ……」 「どしたの、ヒナキ」 田中の呻きに気付いた鈴木が、彼女の目線を追い窓の外を眺める。 すると今度は、その土砂降りすら物ともせず「おいしいおいしいお肉おいしい」と足元をぴょこぴょこ飛び跳ねている通常サイズの蛙を次々と拾い喰いしていく女子生徒の姿。 その女子生徒は拾い食いを続けながら先行する三匹の巨大蛙を追いかけているようにも見えた。 「「……え、まじで?」」 そう。悲しいかな彼女らにとっての現実もまたこの非現実な世界の延長だったのだ。 田中と鈴木は目を見合わせると、本日何度目かのため息をついた。 ◇双葉学園醒徒会室 突然の土砂降りで帰宅するタイミングを逃した醒徒会女性メンバー、会長|藤神門《ふじみかど》|御鈴《みすず》と副会長|水分《みくまり》|理緒《りお》、書記|加賀杜《かがもり》|紫穏《しおん》の三名が、それでもいつもの通り醒徒会室で雑談に花を咲かせていた。 室内には彼女らの他に、隅の席で漫画を読んで時間を潰している広報|龍河《たつかわ》|弾《だん》の姿。 「そういえばきんたろーやルール、あとはやせは何処へ行ったのだ?」 「成宮くんとルールくんは今年度予算の内訳詳細について学園事務局の方へ出向いています。あと早瀬くんは表にいますよ」 水分の言葉に御鈴が「ふむ」と小さく頷くと窓の外に目線をやる。眼下の校庭では雨に濡れて質量の増した赤いマフラーをなびかせながら、この土砂降りの中を|な《・》ぜ《・》か《・》超高速で反復横飛びしている人影っぽいものが見て取れた。 「はやはや……何やってんだー……?」 加賀杜が藤神門と一緒になって校庭の様子を伺う。 そこへ、席を外していた会計|成宮《なるみや》|金太郎《きんたろう》と会計監査エヌR・ルールの二人が部屋へと戻ってくるなり、 「おーい、なんか連絡があったぞ。この雨の中、島内に大量発生した蛙の原因究明とそれがラルヴァによる場合の討伐をお願いしたいとさ」 成宮が面倒事を頼まれてしまったと言わんばかりに、室内のメンバーへと伝えた。ルールもやれやれといった表情を浮かべている。 「……かえる?」 女性三名があからさまに嫌そうな表情で答える。紫穏は窓の外を眺めたまま、 「うーん、それにこんな強い雨じゃ傘さしても濡れちゃうねー」 能力的にこの手の活動には不向きな成宮と、性格的にどうしてもラルヴァ討伐を躊躇ってしまうルール、そして「蛙」に拒絶反応を示している女性三名を見、龍河は読んでいた漫画雑誌を放ると後頭部を掻き毟りながら立ち上がった。 「……んじゃあ俺が行ってくるぜ。俺なら変身しちまえば濡れても特に問題ねぇしな」 「でしたら、私も行きましょうか」 水分の申し出を龍河は手のひらで制すと、親指で校庭を高速で動いている人影っぽいものを指し、 「いや、既にずぶ濡れになってるアイツを連れてくわ」 「あーい。それじゃ龍《た》っつぁんよろしくー」 上着だけ室内に脱ぎ捨て窓から飛び降りて行った龍河を、加賀杜が手を振って送り出した。 龍河は空中で龍《ドラゴン》へと変身すると、その強靭な両脚で力強く着地する。まだ校庭内は無事だったが、校門あたりまでケロケロゲコゲコと茶色と緑色の波が押し寄せているのが見て取れた。 「あれが金太郎が聞いてきた『大量発生した蛙』か……。確かに相当な量じゃねぇか」 「あれ? 弾さんどうしたんすか」 庶務|早瀬《はやせ》速人《はやと》は、校庭へ龍《ドラゴン》化した龍河が現れたことに気付き足を止め、声をかけた。 龍河は、肩で息をしている早瀬へと歩み寄ると、 「速人、仕事だ。蛙のボスを探しに行くぞ」 端的に要件を伝えた。 「蛙のボス……ってもしかしてあれじゃないっすか」 早瀬は即答し、学園で最も階の高い校舎棟の屋上を指差す。 「なっ、あれって……でかっ!?」 「雨でよくわからないんですけど、あいつさっきからずっとびょんびょんと鬱陶しいんですよ」 早瀬の言う通り、彼の指さす校舎棟屋上では、牛より更に大きな蛙が数匹、まるで天を目指すかの如く飛び跳ね続けている姿があった。 ◇双葉学園校舎棟屋上 「こいつがこの騒動の主犯格ということなのだな」 龍河に呼び出され、醒徒会メンバーが嫌々ながら屋上へとかり出された。女性三人と成宮、ルールは各々に傘をさし、そのぴょんぴょんと飛び跳ね続けている巨大な蛙と対峙する。 「あいつ、何したいのかさっぱりわからないな」 傘をささずにずぶ濡れのままの早瀬がぽつりと呟く。 (土砂降りの校庭で反復横飛びしてるお前の行動もわからないよ) 他のメンバー全員がそろって同じ思考を巡らせたが、面倒なので誰一人口にする者はいなかった。 そうこうしているうちに、屋上への来訪者に気づいた蛙がその脚を止め、彼らへと振り返る。 「君たち、誰ー?」 「蛙が……喋った。こいつやっぱりラルヴァっぽい?」 「――この蛙騒動はお前の仕業なのか?」 加賀杜を制し、藤神門会長が一歩踏みだし問いただす。蛙はその首を傾げ七人を真っ直ぐ見据えると、 「僕たちは、目的達成のためにこの島へ来たんだ。僕は、僕たちの目的達成のためにここへ登って来たんだ」 「目的、だと?」 「そう、身を呈《てい》して僕を守ってくれた仲間のためにも僕は必ず達成しなければならないんだ……」 喋る巨大蛙は天を仰ぎ、深い悲壮感に身を奮い立たせていた。 ◇数分前、商店街わきの小さな公園 「見つけたよ! おっきなお肉!!」 突如現れた人間――背が高くておっぱい大きい金髪少女――の登場により、先を急ぎたい巨大蛙たちは足止めを余儀なくされてしまった。 「沢山のちっちゃなサイコロステーキも悪くないけど、やっぱりはみ出るくらいおっきなステーキも魅力的だよね!」 そういって人間の少女はビシリと蛙たちを指さした。 「知ってるんだよ! 蛙のお肉は鶏肉にそっくり同じなんだってね!」 ――語弊はあるが間違ってはいない。その目的のために飼育されている種類も存在する。……するのだが。 「だから蛙はトリと同じ、ううん、むしろ蛙はトリなんだっ!」 「「「なんだってー!!」」」 そして人間の少女は「我、命ずるお肉食べたい」と呪詛のように言葉を吐き、、雨のぬかるみも物ともせずに地を蹴り三匹の蛙との間合いを一気に詰め、一番近くにいた一匹の脚へと噛みついた。 「ギャーーー!!」 「弟ーー!!」 「あぁ、僕はもうダメだ……あんちゃんたちは早く先へ……」 人間の少女に噛みつかれた蛙が、残った二匹に早く行けと促す。しかし―― 「末っ子のお前を一匹残して行けるもんか。僕が残ってお前を助ける! あんちゃんだけでも行ってくれ!!」 「弟二匹を見捨てて僕一匹逃げるなんて出来るわけがないだろう!?」 悲しいかな彼らの兄弟愛は狂おしいほどに暑苦しくそして鬱陶しかった。 「何をバカなことを言ってるんだ! あんちゃんたち、必ず僕らの悲願を達成しておくれ!」 しかし末っ子蛙が言うよりも早く、次男坊蛙が少女に向かってフライングボディプレスを仕掛けた。 「蛙肉がトリ肉を背負《しょ》って来た!」 少女がわけのわからないことを口走り、自身へと飛びかかってきた巨大蛙を片手でいとも簡単に抑え込んでしまった。 「しまった! ここは僕に任せて、あんちゃん早く!!」 「あんちゃん頼んだよ、絶対にこの島を僕たち蛙の楽園に……」 「……わかった。お前たちのこと、絶対忘れない!!」 長兄蛙は涙を流し、少女と共に残された二匹の弟蛙に背を向け一気に飛び跳ねた。 「すまない兄弟! 僕は……僕は……必ずトリになって見せるから!!」 「「あれっ!? あんちゃん目的変わってる!?」」 次の瞬間、二匹の弟蛙たちは一人の少女の胃袋へと収められてしまった。 ◇時間は戻り、再び双葉学園校舎棟屋上 「人工的に設けられたこの島には僕たち蛙が少なすぎるんだ。僕たちは雨の象徴。この島が水不足に悩まされないよう、僕たちが力を合わせて雨を呼ぶんだ!」 巨大蛙はいかにも自分たちが必要なんだと強く力説する。それを聞き、終始笑顔を絶やさない水分副会長が一歩前へ出ると、 「お言葉ですが過去この双葉島で水不足になったという事例は聞いたことがな……」 「そして僕は空を飛ぶ」 「人の話は最後まで聞き……蛙が空を飛ぶ?」 話の腰を折られた水分が、それでも笑顔を崩さず蛙のとんちんかんな言葉に首を傾げた。 「僕の弟たちを美味しそうに平らげた人間が教えてくれたんだ。僕たちはトリなんだって。だから僕らは空も飛べるはず」 そして細い四本指の拳をぐっと握った。 その場の醒徒会メンバー七人は、変なのと関わってしまったなぁと揃ってため息をついた。蛙はそんな彼らなどお構いなしに相変わらずぴょんぴょんと飛び跳ね続けている。 「ひとまず、こちらの総意は『お帰り願えますか』ということだ」 ルールが言う。しかし蛙が即座に反論した。 「嫌だ! 僕はここにいる! ここから空へと飛び、沢山の仲間を呼んでこの島を蛙の楽園にするんだ! 僕を残し先立った弟たちを弔うためにも!!」 まるでこちらの言い分に聞く耳持たずと言わんばかり。それまで全裸のまま雨に打たれていた龍河は、業を煮やし再び龍《ドラゴン》化すると、 「ならば全力でも!!」 その剛腕で蛙を掴み上げ、 「うぉりゃぁあ!!」 空高く、全力で放り投げた。 「――白虎」 続けて、水分に傘を預けた藤神門はその手に白虎を召喚する。 「うなー」 「行くぞ、しおん。白虎よ、やれ!」 「あーい、まかせて親分!」 触れたものを強化することのできる加賀杜の異能により、その投げ飛ばされた蛙にも負けないほど巨大化した白虎の口が彼を捉え―― 「がおーー!!」 天を貫く閃光が、空中で手足をばたつかせていた巨大蛙を包み込んだ。 「――僕……今、空飛んでるよ……」 ◇再び双葉学園醒徒会室 「雨やまないか……あの蛙関係なかったみたいだな」 降り続く雨音にうんざりしながら成宮が小さく呟いた。その声に、書面を作成していた加賀杜が首を上げ辺りを見回す。 「あれ? そういえばまたはやはやがいないや」 「早瀬ならまた外にいるぞ。なにやら修行だとさ」 「……しゅぎょう?」 ルールの言葉に、藤神門が何故そんなことを、と眉間にしわを寄せる。 そこへ、隅の席で先ほどの漫画の続きを読んでいた龍河が口を挟んだ。 「さっき屋上で聞いたんだが、雨粒が落ちてくるよりも早く避ければ濡れないんじゃないか、ってな。避けた先にも雨粒があるんだから俺は結局無意味だと思うんだがな」 六人は窓から眼下の校庭を覗き見た。 そこには早瀬は校庭で必死に超高速反復横跳びを繰り返す姿があった。あいかわらず全身ずぶ濡れになりながら……。 ◇翌朝、スィーツ&ベーカリーTANAKA 一晩明けても雨が止むことはなく。帰るタイミングを逃したまま一泊していった鈴木と共に田中は学園へと登校すべく家を出た。店舗前の商店街には同じく学園へと向かう生徒の姿がちらほらといた。 先日あれだけ道路を埋め尽くしていた蛙の姿はどこにも見当たらず。ふと、その蛙を拾い食いしていた女子生徒のことを思い出す。 田中たちの前を行く女子生徒三人組+なんかキュッキュ言ってる白くて丸い饅頭っぽいような変なのたちの会話が、雨音に混じって耳に届く。 その内、透明のビニール傘から綺麗な金髪を覗かせるおっぱいでかい背の高い一人が「昨日は一晩中歩き回っておなかいっぱいお肉を食べてたんだよ。でかいの一個だけ逃しちゃったのが残念なんだよ」とか言っている。いったい何の話だろう。 ――そういえば……そういえば、あの時に拾い食いしてたのってこんな感じの容姿だったような――? 「まさか、ね」 常識の通用しないような人でもない限り、あれだけの数の蛙を全て拾い食いしていくなんてどう考えてもあり得ないだろう、と田中は首を横に振った。 何処かで蛙の鳴く声が聞こえた、ような気がした。 田中と一緒に、前を行く巨乳の金髪少女がその声に反応した、ようにも見えた。 【カエルの時間をお知らせします】終 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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キャラクター名 シルフィーナPスキル:★財力 :★★★★厨房度 :★★★★★ ランカークラス Class 汁 キルクラス デット数 普通 所属部隊名 発言の痛さ BL推奨 勝ち馬属性 初期ネツ民 戦闘スタイル パニカス タグ BAN キャラ ネツ 汁 草 総評 本人への要望 自演はやめましょうね ネツが誇る最強(厨房)キャラであり、頻繁にスレに光臨するネツの害虫。超ラディッツを煽る姿が2ch上で頻繁に見られる 職が頻繁に変わりそれなりに腕は上手い部類ではあるが、スコア的にはVictriaやゆかりんといったTopプレイヤーには及ばない イノにウェイブサッカーをされたトラウマで エル戦にはこれなくなってしまっていたらしい +シルフィーナに対する苦情、お問い合わせはこちらへ メインキャラはウォリなのだがそれを封印し苦手な皿やスカに挑戦してる。 その苦手キャラにボコボコにされた人からの嫉妬が多いらしいが本人は有名税だと思いニヨニヨしているとのこと。 最近はイノの粘着wisがウザイためイノをBL入りにしたらしい。 ↑自演はやめときましょう。見るに耐えませんよ汁フィーナさん。あ、でも一言追加して利用させてもらいまいした^^ 削除されていた汁本人と思われる書き込み (-捏造はだめだろwwwww) (-ドランゴラで10デッド?んなこた一度もしてねーしwww) (-電話でFOしたこと一度だけあるが戦績どーでもにいのに10デッドくらいでFOするわけないじゃんw) (-10デッドしてFOしたのはイノだろwwwwwwww) ネツが誇る患者の一人。 メインキャラはウォリなのだがドランゴラで10デッドした挙句FOという戦績を持つためそれを封印し得意な皿やスカに挑戦してる。 その得意キャラにボコボコにされた人からの嫉妬が多いらしいが本人は有名税だと思いニヨニヨしていると見せかけて精神崩壊寸前とのこと。 最近はイノの粘着wisがウザイためイノをフレンドリストに追加して自分から煽りwisに励んでいるらしい。 と編集していた矢先におまいらの仕事の速さに感動した。 わざわざエルの目標地に来てまで防衛放棄の空き巣とか訳の分からないこと言わないでくださいwwwww パニカス殺して煽っちゃうと敵もいない所でステップしまくりで自軍背後でガクブルしてる雑魚www 逆に殺して煽るとTELLしてくるらしいぞwwww ってイノが言ってた^^ 氷皿だとPSないからキル全然とれないんでスカに戻ってたな 普通に殺して煽ると全茶で顔真っ赤にしてくるらしいぞ? キルとった人は煽りを忘れないように心がけよう! ついでに汁が煽った奴をヲチしてればヲチ鯖民必見のルーキーが出てくるんじゃないか?という発想 汁ネタ飽きてきたし汁のページでかくなってきたから新しい燃料がほしいです。汁もスレに来なくていいです。 汁最近みないけど どっか亡命したか?情報求む Bホルで同名の人物を発見。但し全チャや痛い発言が無かったので本人かは不明。 見た時は2キル5デッド3kというまさに短カス級スコア。 ∇ FEZ ファンタジーアースレイ Z鯖晒しスレ15 758 :名無しさん@ゴーゴーゴーゴー![sage]:2008/02/25(月) 01 52 58 ID Zp3amvPS0 755 たぶん最近の汁はお前より役にたってると思うよ ∇ FEZ ファンタジーアースレイ Z鯖晒しスレ15 766 :名無しさん@ゴーゴーゴーゴー![sage]:2008/02/25(月) 06 30 46 ID Zp3amvPS0 760 ちょっと考えれば分かると思うけどBL入れればいいんじゃないか? そしたら不快じゃなくなると思うよ ∇ FEZ ファンタジーアースレイ Z鯖晒しスレ15 794 :汁[sage]:2008/02/25(月) 21 39 38 ID Zp3amvPS0 魔軍って最低だよなwww 岩本良平=射程伸ばしチート 牛島=絞り オーエン=瀕死状態でバッシュされて「Alt+F4」→カセ側が割れてたから何食わぬ顔でもどってくる 全チャで指摘すると魔軍がすごい勢いで追ってくるから超こえーwwww 最近片手になった。 痛いのさえ目をつぶれば、PSはなかなかのもの。 頼りにされている。 4/5 結構痛い発言無くなって正論言うようになったぞww ★1は無いわw3にしておくw 5月になってからは全くと言っていいほど見かけない。 今までは降臨していた晒しスレからも姿を消したことから、汁の身に何かあったことが予想される 暴言が多かったため、美乳同様に垢BANの可能性も高い BL入れてるからどうでもいいけど垢BANなのかぁ?だっせーwww 精神的に病んで戦争にこれなくなっても、擁護、自演はかかせないただのメンヘラ君
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過去のイベント シェアードワールド「双葉学園」で行われた企画・イベントのまとめページです 月ごとにお題を決めて作品を募集する、定期イベントがあります 定期イベント 2011年 月例お題コンペ 3月 「帰郷」 2月 「雪合戦」 1月 「鍋」 2010年 月例お題コンペ 12月 「ピクニック」 11月 「口付け」 10月 「日常」 9月 「お月見」 8月 「花火」 7月 「ラッキーな体験」 6月 「梅雨」 5月 「GW」 4月 「花見」 3月 「期末テスト」 2月 「バレンタイン」 1月 「正月」 2009年 月例お題コンペ 12月 「クリスマス」 11月 「文化祭」 10月 「ハロウィン」 9月 「○○の秋」 8月 「海」 7月 「学園七夕祭り」 不定期イベント 双葉学園一周年イベント 投稿ページ 一周年記念特別企画 PCへの質問テンプレ 第1回:「醒徒会役員選挙」 →結果を見る 上に戻る 【リンク】 トップページ 基本設定 作品保管庫さくいん シリーズタイトルから検索
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名前 身体データ 所属 人物 能力 その他 ☆名前 壁 かべ 本名は不明 (@kabekabe159) ☆身体データ 身長:120〜180cm 体重:35〜75kg 性別:男性寄り ☆所属 とくになし ☆人物 意思を持った壁。 壁に宿った歴史や意味といった概念が形を成した、精霊みたいなもの。人間くさい。 誰かをからかいに行っては逃げる気分屋。反応の良い子が好み。たまに捕まる。 基本的に姿は自在だが、好き好んで人間の形を取る。 基本形態は成人男性(170/55)だが、少女・女性の姿を取ることも多い。主に使うのは2、3種類。 生まれは不明。体重の基準は生まれた世界。能力値は世界毎に修正を受ける。 能力らしい能力はあまりなく、ほとんどが特性に分類される。壁潜りや瞬間移動、世界間移動など。 分家入りしたわけではないが、同格の扱いを受けている。 ☆能力 1.壁操作 地面から壁を生やしたり、壁の形を変えたり、限界の壁をぶち壊したり。 2.補助魔術 能力補助、行動阻害、罠設置、など悪戯用。 ☆その他 シスイとは面識があるが、別に事情に詳しい訳ではない。たまにひょっこり遊びに来る。 一度だけ熟睡している紫水を叩き起こし、寝起きで機嫌が悪い紫水にボコボコにされた。 存在が曖昧なので何度死んでも気がついたら復活している。
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ラノ・おっぱいリミックスヴァージョン http //rano.jp/969 「まったくもうー。助役さんったらお話長すぎて苦手です」 小松がぶすっと頬を膨らませてそう言うと、六谷があははと笑ってこうなだめた。 「そんなこと言うな小松。安全遵守は鉄道の基本であり、みんなで守っていかなければならないものだ。助役があそこまで熱っぽく話したくなるのもよくわかる」 二人はEF210型電気機関車に乗って、持ち場である双葉学園駅(仮称)に向かっていた。この機関車は、双葉学園鉄道が貨物輸送の機関車を導入するにあたり、JR貨物の優良な機種を採用して、特別にオーダーしたものである。 「早く駅に着かないかなあ」 小松はうんざりとした様子で前方を見た。強い発光を見せる青信号が、左のほうへと流れていく。継ぎ目のまったくないロングレールが、機関車のライトに照らされてどこまでも続く光の線となっていた。 今日は双葉学園鉄道の本拠地である豊洲駅(仮称)にて、駅員が一同に会して開かれる「業務研究会」があった。安全運行のために普段気をつけなければならないことや、表の鉄道会社ではどのような営業・運転事故が起こっていて、未然防止のためにどのような取り組みをしているのかなどを、駅業務に関わるみんなで確認してきたのだ。 「でも、もうお昼過ぎてますよお? はあ。明けで大学の友達とショッピングに行きたかったのになあ」 「それなら小松。これから私と一緒にお風呂でも行かないか?」 信じられない目をして小松は六谷を直視する。健康ランドでの一件を、小松は忘れない。 「うげ・・・・・・六谷さん、前のことを覚えている上で、そんな提案をするんですか・・・・・・?」 「ま・・・・・・まあ、私だって意固地になることだってあるよ。欲しいものは手に入れないと、気がすまないっ・・・・・・」 そう、拗ねるように言った六谷の横顔に、小松は思わずきゅんとしてしまう。(か、かわいいこの人・・・・・・) 機関車にブレーキがかかり、小松は前に倒れそうになった。若い男性の機関士は、「双葉学園到着! 場内注意! 制限二十五!」と指差歓呼をしっかり行うと、さらにブレーキを強めて機関車に減速をさせる。 「とにかく、だ!」六谷は、きまりが悪そうにこう続けた。「私は今、とってもお風呂に入りたい。こう地下にずっと潜ってて、汗ばかりかくのは不衛生だろ? そうだろ?」 「あら業研お疲れ様ですー。どうでしたか? そちらの助役さん、相変らずおしゃべりでしたかー?」 「ああ、かれこれ四十分間は助役の独演会になってたなあ。学園都市駅(仮称)の奴らなんて、明けで眠たいのかぐっすり寝てたわ」 「うふふ。無理もないですよー。私たちは仮眠時間が五時間程度なのですからー」 そう笑いながら改札の椅子に座っているこの女性駅掌は、名を愛甲しのぶと言う。小松らとは反対番の駅員で、六谷と同期である。決定的に違うのは、この黒髪ストレートのお姉さんは人妻だということだろう。 「ちょっとはしっかりしろと言いたかったけどなあ。男のくせになんなんだ。自分の仕事にプライドってもんがまるで感じられない」 「あなたは根っからの鉄道員ですもんねー。私のように、まったりのんびりやらせていただいてるような女とは全然違う」 「しのちゃんはもう立派な奥さんなんだから、それはそれで私よりも立派だろう? はあ。私のような女っけがないのにも、何か出会いのようなものでもあればいいんだがなあ・・・・・・」 「あれー? 純ちゃんあなた、私の投げたブーケ、受け取ったんじゃないの?」 「私じゃないよ。あれを受け取ったのは・・・・・・はあ。んにゃろーめ・・・・・・」 小松はロッカールームで制服を脱ぎ、私服に着替えていた。いったん鏡で己を見たら、このぺったんこな胸をどうしたら見栄えが良くなるかが気になって仕方が無くなり、無理やり寄せてみたり、無理やり寄せてみたり、やっぱり揉むしかないのかなあと思って、ふにふにと柔らかい貴重なところをつまんでみたりと、とてもむなしい行為に及んでいた。 「こまっちゃーん」 「うひゃあああ。びっくりさせないでよお、美歩ちゃあん・・・・・・」 ショートカットの童顔が、ごめんごめんと両手をひらひら振りながら謝る。小松は彼女の発育の良い胸を見ると、思わずため息をついた。 「美歩ちゃんはどうせ、私のように悩まなくてもいいもんねえ。いいなあ。その・・・・・・ごくり」 「え? え? どうしたの? 私の何がそんなにいいのこまっちゃん?」 大豊美歩は反対番の新人駅員である。今年入社をした小松とは同期であり、交代時によくこうして会話を楽しんでいる。小松が必ず欠かさないのが、目測による身体測定であった。 (うーん。育ってる。同じ十八歳なのにこの差は何なんだろう。こんなの、個人差と片付けるには納得いかないよう) 「今日のこまっちゃん、いつにも増して様子が変・・・・・・」と、大豊は心配そうに言った。「あ! もしかしてこの前、愛甲さんの結婚式のときブーケを取ることができたから?」 ああ、そんなこともあったねえと小松は言った。何でその話になるのかなあとも思っていた。 愛甲の結婚式のさい、小松は見事に彼女の放ったブーケをキャッチすることができたのだ。瞳を輝かせてひときわ大喜びを見せたのは、大豊であったが。大豊は妄想癖の強い乙女なのだ。 そこをどけぇーーーっ! 小松ぅーーーーっ! そう自分に向かって突っ込んできた六谷に対し、「はあい? 何か言いましたか六谷さあん?」と呑気に言いながら、小松は片手でブーケを捕ってしまった。まさかの結末に、六谷はその勢いのままズガシャと派手にすっ転び、しばらく地面にうつ伏せになったまま泣いていた。 「あのあと、六谷さんに『いりますかあこれ?』ってきいたら『いらないよばかぁ!』って怒られた。そんなこともあったなあ。忘れてたよう・・・・・・」 「まあ、こまっちゃんはお料理上手だし、優しいし、これからきっといいお嫁さんになれるってことなんだよきっと!」 その一言に小松の頬が赤くなった。「うへえ・・・・・・もう・・・・・・やだあ」 小松と六谷は私服に着替えると、着替えやタオルをカバンに詰め、駅の表に出た。 双葉学園駅は、その名の通り双葉学園の最寄り駅として設定されたので、中央口のすぐ目の前に校門が位置している。このような機能的・計画的に設計されているのも、もともとは島と本土を繋ぐ重要なインフラとして整備されたからだ。鉄道計画が中止されてからこの中央口は封鎖され、小松が駅の外で買い物をするときぐらいにしかこのシャッターは開かない。 業務研究会が長引いたこともあり、時刻は十五時を過ぎていた。学園を出る中等部の生徒が、談笑をして騒ぎながら商店街へと歩いていった。 「学生は呑気でいいなあ。私も過去に戻って、もう一度あのかわいいブレザーを着てみたいもんだよ」 「へえ、それは何年前の話ですか? 私は数ヶ月前ですけど、六谷さんはじゅ・・・・・・ぐふっ」 「はい余計なこと言わないでよろしい。さ、お目当ての銭湯にいこうか」 「頭殴らなくたっていいじゃないですかあ! これ以上バカになったら、責任とってくださいよう・・・・・・?」 小松はよろよろと六谷のあとを付いていった。 双葉湯。 商店街から細い路地を入ってしばらく歩いたところに、昭和ながらの古めかしい銭湯はあった。本土に暮らしていた店主が「実はワシも異能者だったんじゃ! 見てみい、この有機物をギュッと握ることで、重油を作ることができるんじゃ! なあ、頼む! ワシに島で銭湯を経営させてくれないか!」と申し出たことで、それまで世田谷にあった建物を、そっくり双葉島に移築したのだ。 小松は下駄箱に靴を入れると、「20」の数字が書かれた木製の鍵を取った。一方、六谷は6番を選んだ。 「わあ。地下駅に比べればまだましな湿っぽさですね六谷さあん」 「・・・・・・お前はもう少しまともな感想を言えんのか。この空気がいいんだろうが。風呂上りに浴びる扇風機は最高だぞー?」 六谷は小松に気づかれないよう、視線を横にずらしつつそう言った。そこには健康ランドに設置されている物にも劣らない、立派な電動式マッサージ機が・・・・・・。 さすがにあの難波とかいう必死な女も、このような目立たない銭湯にこんな素晴らしいマシンがあることは知らないだろう。六谷は口元だけでニヤリと笑う。 超科学を専門とする異能力者が、趣味と暇つぶしとを兼ねて開発した夢のマシンなのだ。魂源力で女性をキレイにするマッサージ技師の異能を擬似的に再現しており、六谷がかき集めた情報によれば、双葉島ではまだこの銭湯だけにしか導入されていない。 「私だったら、こんなものを創造してしまった神は、ノーベル賞しかありえないんだがな・・・・・・」 「六谷さあーん? 何してるんですかあ? 早く入りましょうよう」 はっとして振り返ると、すでに小松はすっぽんぽんで浴室の前に立っていた。 「六谷さん! お背中流します!」 「おう、ペーペーとしていい心構えじゃないか! お願いしよう」と、六谷は機嫌よく言った。「それでこそ男社会で生きていく秘訣だ!」 はあい、おまかせくださあい。そう言って、小松はしっとり濡らしたあかすりに、たっぷりボディソープを乗せてあわ立てた。がしがしと上下に腕を動かし、六谷の背中をこする。 「おいおい、全然力が足りんぞ小松。そんな生ぬるいもんじゃ、私の体は綺麗にならないなあ」 「うへえ。こ、これでどうですかあ?」と、小松は顔を真っ赤にして一生懸命腕を動かした。目をぎゅっと瞑り、自分の出せる力の限り、背中を磨き続けた。 「まだまだあ! 何だ、お前は怪力なのに、そういう力は出せないのか」 「私はあくまでも物を持ち上げたり、支えたりするときに力が出るみたいなんですう。このような仕事は、あくまでも能力の適用外ですよう」 「そうかそうか・・・・・・。便利なのかそうじゃないのか、よくわからない力だなあ」 「う、う、うおおおおおお! 六谷さあん、これで、どうですかあああ~~~」 「ダメだ! やる気あるのかあ! もっと強く! しっかり磨けえ!」 「うへえー・・・・・・」 どれぐらい長いこと、六谷の背中を洗っていたことだろう。小松は歯を食いしばり、夢中になってあかすりを握っていた。蛇口台を挟んで向こうのほうに、女の子三人の体が見えた。小松ら二人のほかに、客がやってきたようである。 「よーしよし。もうこれで許してやろう。どうもありがとうな」と、六谷は言った。「ま、別に最初っから力加減は合格点だったんだけどな!」 がっはっはと意地悪そうに笑った六谷に、小松はまぬけな顔で絶句した。 「お前がそうやって頑張るから、ついつい長いことやらせてしまった。私はつくづく、可愛い後輩を持ったもんだよ。大好きだぞ小松。お疲れ様、風呂から上がったら、コーヒー牛乳おごってやるからな」 優雅にそう言った六谷は、背後でゆらりと立ち上がった黒い影に気がつかない。 「・・・・・・いーえいいえ。まだまだ洗い足りません。大好きな六谷先輩のために、わたくし小松、いっそう頑張りますね」 「お、おい? もういいんだぞ? 後は自分で洗うからお前は・・・・・・ひゃっ?」 小松は両手で六谷の腰を挟む。ありったけのボディソープを塗りたくり、その細さと形のよさを、実際に触って確かめた。 「いいんですいいんです。私の六谷さんに対する尊敬の念はこんあに生温いものではないんです。私にぜーんぶまかせて、六谷さんは力を抜いて楽にしててくださいねえ・・・・・・」 右の手のひらでお腹の辺りを撫で回す。無駄な贅肉など一切ない、完璧なウェストだった。それから中心線にそって胸部に向かい、指先をなぞらせた。六谷の体が、ぴくりと動く。 「そんなとこまで洗えとは言ってないぞ! もういいから、先に湯船に・・・・・・あっ」 「ふっふっふ。到達しましたあ。捕まえましたあ。あの生地の厚い制服を突き破ろうとする自己主張の強い悪い子なコレを、今日は丹念に洗って差し上げますね六谷さあん・・・・・・?」 「貴様・・・・・・! もしかして、初めからこれが目的だったのか・・・・・・?」 「うへえ? 何か他の子の声が騒がしくて聞こえませえん。・・・・・・あ、すごい。両手にずっしり乗っかってる」 「もういいだろ! いい加減にしないと怒るぞ! ・・・・・・あ、やだ、だめ」 「この柔らかさ。あったかさ。張りと弾力。相変らず、素晴らしいものを持っていますねえ。洗い心地が最高ですう」 「や・め・ろォ! そんなに乱暴に扱わないでくれ! ・・・・・・いや、さっきのを根に持ってるのなら悪かった、私が悪かった、だからもう許してくれ小松」 「いけませぇん。ぬるぬるのボディソープで、一つの垢の残らないように洗ってあげますよう・・・・・・? ・・・・・・あれ、何でコレこんなにカチカチになってるんです」 「お前のせいだろうが! ・・・・・・あ、や、やめて、触らないで」 「どういうことですかあ? どうしてコレこんなになってるんですかあ? ただ洗ってあげてるだけでこのザマはなんなんですかあ?」 「やめて・・・・・・いやあ、もう許して・・・・・・」 涙をたくさん浮かべ、熱い吐息混じりにそう懇願した六谷に対し、小松は冷たい無表情でこう耳元にささやきかけた。 「男性駅員も恐れる、男勝りの六谷純子がそんな甘ったるい声を出すなんて、これは何かの嘘です。幻想です。いささか見損ないましたあ。このへんたい!」 数分後、二人は湯船に漬かっていた。壁にはホーロー看板が貼り付けられており、丸文字で「双葉接骨院」と書かれている。実に昭和らしい雰囲気であった。 「この熱めの湯がいいんだ。ジェット風呂はほんと、疲れた体によく効くなあ・・・・・・」 その隣で小松はぐすぐす泣きながら、鼻の辺りまで湯に漬かっている。その頭にはでっかいたんこぶが、赤々と輝いていた。 浴槽はタイル張りで、背後には、きっと職人が描いたのだろう、立派なタイル絵があった。素晴らしい技術とタッチで、巨大な「白虎」は描かれていた。タイル絵は富士山の風景画しかありえないだろうがと、これには六谷も憤慨していた。 小松たちとは少しはなれた位置で、女の子三人がはしゃいでいた。ばしゃばしゃと、湯船で無邪気に遊んでいる。 「それにしても、騒がしい人たちですねえ。中等部っぽい子たちですが」 「どーれ? お、あの子たちは学園の、大物中の大物たちじゃないか」 「うへ? どういうことです?」 「知らんのか小松。あのちびっこを見るんだ。あれ、誰だと思う?」 小松はよく目を凝らして、紫色の髪をしている幼い女の子を見た。ショートカットの女の子と共謀し、黒髪のお姉さんの体を触りあっている。「やーめーてー」と言いながら、彼女はむなしい抵抗を見せていた。 「わかりません。誰なんですかあ?」 「あれが、学園醒徒会の今の会長なんだとさ」 「えー! あれがあー!?」 大声を上げた小松を、六谷がすっぱたいて黙らせる。「いちいち騒ぐんじゃない! バカ!」 「ひどぉい。たんこぶの上にまた殴ったあ・・・・・・くすん」と、小松はしくしく泣きながらこう言う。「醒徒会会長っていったら、もっと硬派というか、声の大きな人というか、そういうのがなるもんだと思ってましたあ。学園も変わったもんですねえ」 「そうだなあ。私たちが地下に潜っている間に、色々と世の中は変わっていくようだ」 六谷は、ふう、と熱い息を吐き出して上の方を見る。 天窓から、夕暮れ時の陽射しが差していた。 早瀬速人は醒徒会役員である。 役職は庶務。むしろ庶務というよりは雑用に近いかもしれない。 自らの能力である加速能力を生かし、日々学園を走り回り、跳び、滑り、時には転びながらも、自らの使命を全うしている―― 「さあ、追い詰めたぞ! この変態覗き野郎め!」 早瀬は肩で息をしつつ、銭湯の瓦屋根を上っていた。全裸のままで上っていた。天窓のあたりには、謎の小さな影がちらちらと確認できる。 彼は本日、醒徒会のメンバーと銭湯に来ていた。 ことの始まりは、やはり会長であった。会長の「銭湯というものに興味があるのだ。行ってみたい、行ってたいんだあ早瀬ぇ! うえーん」というワガママによって、彼は本土の銭湯を自分の足で偵察してくる羽目になった。島に銭湯ができたことを知らなかったのだ。 とびっきりの銭湯を見つけ、報告をしに醒徒会室に帰ってくると、すでに彼らの姿はない。 半ばキレつつモバイル学生証で会長を呼び出すと、代わりに加賀杜紫穏がヒマワリのような明るい笑顔をしながらこう言ったのだ。 「島の中にね、できたばかりの銭湯があったんだよー。アタシがそう言おうとしたら、君、光の速さで出てっちゃったじゃーん?」 それを聞いた早瀬はその場に崩れ落ち、ウッウと嗚咽を漏らした。 そういうこともあって、早瀬は得意の加速で駆けつけてあとから彼らに追いついた。みんなは彼を一切待つことなくもう浴室にいたので、ぶつぶつ文句を言いながら、いそいそと服を脱いでいるところであった。 屋根へと登っていく、何者かの影・・・・・・! 「覗きが出た!」。そう早瀬は直感し、その影を追うことにしたのだ。 「こうして俺が覗き魔を成敗できれば、俺は表彰される! 知名度が上がる! 人気が出る! 空気じゃなくなる! うおおお、俺は絶対に、この機を逃さないからな!」 彼はいよいよ天窓に到達した。燃えさかる夕日と、情緒あふれるたそがれ時の商店街をバックにして、彼の裸が黒い影となって際立っている。早瀬は何者かの影を、その手で掴み上げた。 「さあ観念しろお! ・・・・・・あれ?」 「にゃー」 その不審な影は、なんてことはない、会長の式神である「白虎」であったのだ。なるほど、中に入れないから、こうして天窓から主のことを見守っていたのだろう。 「何だよ、お前かよ! クソァ! とんだ無駄骨だった!」 早瀬はがっくりとうなだれて、そう声を荒げた。 そして、早瀬はそれに気づく。 「がおー」 白虎の、つぶらな瞳。 その目は、非常に怒っていた・・・・・・。 ズドォンと、全裸の早瀬が天窓を突き破って落下してくる。 背中からびたんとタイル張りの床に叩きつけられ、しばらく全裸でのたうちまわっていた。 「痛え! マジで痛え! あ、あのマヌケ面がぁ、いっちょまえに攻撃してきやがってえええ・・・・・・」 そうして悶絶しながら転がっていると、幼い体つきの女の子が早瀬を見下ろしていることに気がつく。彼はその女の子にこう言った。 「あ、お嬢ちゃん。突然のことで申し訳ないが、君のママを呼んできてくれないか? ちょっと高いところから落下して、怪我をして、身動きがとれ・・・・・・って、会長!」 「ぐすっ・・・・・・私はそんなにコドモに見えるのか? そんなに幼く見えるのか? 傷ついたぞ、傷ついたぞ早瀬ぇ・・・・・・」 藤神門御鈴はうるうると瞳に涙を溜めてそう言った。早瀬は焦って立ち上がろうとしたが、その首根っこが誰かによって強く掴み上げられた。 「ねえねえ。いくらおおらかなアタシでもねえ、そうしてへんなモンぶらぶらぶら下げて女湯に突っ込まれちゃ、さすがに怒ると思うんだけどー?」 加賀杜は「ケルロン」と書かれた黄色の桶で、早瀬の後頭部をぶん殴った。所持している物の能力を大きく増幅させる能力により、それは強力な鈍器となって早瀬をぶっとばした。 湯船に突っ込もうとしている早瀬を、今度は湯に漬かっている水分理緒が出迎える。にっこり優しい笑みを浮かべてははいるものの、口元の微笑に多いなる怒りの影を彼は見出した。 ドバーッと、湯船のお湯がダムの放水のごとく早瀬めがけて突っ込んだ。 早瀬の体はあっという間に吹っ飛び、浴室と脱衣所を仕切るガラス張りの戸をたやすく破った。 「あわわわわわ・・・・・・」 小松は目の前に繰り広げられている惨状に愕然としていた。 突然吹っ飛んできた謎の男が、あろうことか六谷の胸に顔をうずめているのだ。 「未だに私がやったことのないことを・・・・・・! うう、うらやましい・・・・・・!」と、小松は裸のまま、その場でがっくり床に手を付いた。 どいつもこいつもひどいよう。早瀬はそう、六谷の胸の中でしくしく涙を流していた。 そして、自分が妙に温かくて、柔らかい世界の中に首を突っ込んでいることに気がついた。自分の手で触ってみると、それはこちらがとろけそうなぐらい柔らかくて、張りが強くて、極楽に等しい感触を確かめる。いよいよ自分は天国に到達したのかとさえ思っていた。 同じく湯上りで裸だった六谷は、胸元に飛び込んできたものが変な男だとわかると、一切の表情が顔から消えうせた。マッサージ機を前にして高揚していた気分が、全て吹き飛んだ。 わなわな震えだし、無表情のまま右手の拳を上げて・・・・・・・。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!」 耳をつんざくような絶叫と共に、早瀬が銭湯の入口から吐き出されてきた。ぶん殴られて路上に放り出された早瀬は、「痛えええ!」と叫びながらマンホールの上でもがき苦しむ。そして、双葉湯からズンズン出てきた怒れる女戦士の形相に、大きな悲鳴をあげて逃亡を始めた。 「まだどんな野郎にも触らせたことはなかったというのに・・・・・・がああああああ!」 ピンクのバスタオルに全身を包んで表に出てきた六谷は、悪夢を思い出し、髪をぐしゃぐしゃかきむしった。それから彼女は、自分に背中を向けて逃げていく早瀬めがけ、両手をまっすぐ突き出した。 体の芯から沸き立つ熱は、決して風呂上りのせいではない。自分のハダカを、よくわからないしけた男に見られてしまったことに起因する、純粋な怒りそのものであった。 「私の目の前でつまらないモンぶらぶらぶら下げやがってえ!」 長い茶髪がドンと天を突く。両手の先に、ボーリングの玉を思わせる重たそうな弾が具現した。ばちばちと、それはスパークに包まれている。 走り去ってしまい、もう姿の見えない彼の貧相な体を狙って、砲弾が発射される! 「『きゃのんぼおおおおおおおおおおる』! 絶対に、絶対に蒸発させて空気にしてやるううう! ファイヤアアアアアアア!」 「嫌だ、まだ、俺、死にたく、死にたくない、うわあああああ!」 早瀬は涙と鼻水を撒き散らしながら、商店街をまっすぐ激走する。音速に匹敵する速さで、なおも加速を続ける。つまらないものをぶらぶら左右に振り回しながら、彼は必死になって音速を目指す。 それでも、六谷による怒りの一発のほうが、速さで勝った。 静かな商店街の外れで、強力な大砲は標的に打ち込まれる。 轟音は爆ぜた。黒い煙がもくもくと立ち昇った。 「おはようございますう」 翌日、元気に小松は出勤した。まずは、昨日ついに体感してしまった六谷の胸の触り心地について、仕事上がりの大豊を捕まえ、長い時間をかけて語り倒したいと思っていた。 そして、すぐに小松はある違和感に気がついた。 「あれえ? 六谷さんは、まだ出勤してないんですかあ?」 「ふふ・・・・・・朝ね、豊洲駅の助役に電話があってね、今日体調不良で休むそうですよー・・・・・・」 小松はそれを聞いて目が点になった。 「ええ!? いつも元気な六谷さんが、体調不良で朝デンですかあ?」 「そう・・・・・・急な話で誰も代わりに入れる人がいないから、おかげで私が今日、六谷さんのダイヤに入ることになったのー・・・・・・よろしくね小松ちゃん・・・・・・」 「そんなこと言ったって、愛甲さん、明日も出番じゃあ・・・・・・」 「三日連続で地下駅にこもりっぱなし・・・・・・。早くおうちに帰って、ダーリンとお話したいのに・・・・・・ひどいわあー・・・・・・」 そう、愛甲は血色の悪い引きつった笑顔で、最後に言った。 「お風呂で嫌な思いしたから突然休むってどういうことおー・・・・・・? 純ちゃぁん・・・・・・?」 早瀬の作者さんマジでごめんなさい 最初に戻る 【駅員小松ゆうなの業務日誌】 作品 駅員小松ゆうなの業務日誌 2日目 登場人物 小松ゆうな 六谷純子∥藤神門御鈴 水分理緒 加賀杜紫穏 早瀬速人 登場ラルヴァ ゴキブリ 関連項目 双葉学園鉄道 LINK トップページ 作品保管庫 登場キャラクター NPCキャラクター 今まで確認されたラルヴァ
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双葉学園鉄道は、営業列車の走らない営業路線である。 双葉島を出ると国際展示場、豊洲を経てJR京葉線に合流する。つまり東京駅と連絡している鉄道なのだ。双葉学園構想が具体化されたときに異能者が権力にものを言わせ、都内や県外から通う学生たちのために整備した通勤路線である。 現在、原則として双葉学園の学生は双葉島に住み込むことが決まりとなっている。そのため双葉学園鉄道は本来の役割を果たさず、島内や学園への物資輸送手段として活用されていた。 いつもはネズミ一匹横切らないコンコースに、納まりきらないぐらいの人間が押し寄せていた。 「はいはーい、ふたばPASMOはゆっくりリーダーにかざして通ってくださぁい。あ、そこ! 鞄に入れたまま通さないでぇ、読めないからぁ~~~」 四台しかない自動改札機は全て「入場」専用にあてがわれ、旅客が通過するたび絶えずピッピと電子音を上げて応答していた。小松ゆうなは拡声器を片手に、長い通路の奥のほうを見る。まだまだ行列は続いている。 『小松、そっちはどうだ? まだ入ってくるか?』 制服の肩に取り付けられているトランシーバーから、上司である六谷純子の声が聞えてきた。 「うへぇ、まだまだ入ってきますぅ。これじゃホーム危ないですよう」 『こっちも満杯だ。よし、入場制限をかけよう』 「りょうかぁい」 小松は改札口のほうを向き、「止めて」と両腕をぱたぱた振った。 それを確認した改札口の係員が笑顔で応えつつ、遠隔機で自動改札機の設定を変更する。タッチパネル式のモニターに表示された「確認」のボタンを押した瞬間、改札機は全部バタンと扉を閉じ、押し寄せてきた群衆を遮断した。 「ホーム満員のため入場制限をかけましたぁ。次の電車をご利用くださぁい」 そうアナウンスをすると、キャリーバックを転がすカジュアルな格好の異能者たちは、非常に嫌そうな顔を小松に向けた。 つくづく、客というものは怖いなぁと彼女は感じたのであった。 「お疲れさーん。飲み物冷蔵庫にあるから好きなもの飲みな」 純子は制帽と上着をデスクに放り、ワイシャツのボタンを緩めながら後輩二人に言った。小松ともう一人の係員はわーいと喜んで休憩室に入っていった。 「お疲れこまっちゃん。お客さん多かったねー」 「今日はありがとう美歩ちゃん。やっぱGWは島外に出ていくもんなんだねぇ」 双葉学園鉄道は臨時列車が走ることがある。今回のGW臨は双葉島で勤務する異能者たちの帰省を応援するために運転されたものだ。JRから京葉線の十両編成を一本借り入れ、東京駅と往復させていた。 小松の隣にいるショートカットの少女は、同期の大豊美歩である。小松とは反対番の係員であり、こうして一緒に仕事をする機会はなかなか少ない。彼女は多客対応のため居残りをしてくれたのだ。改札口に大豊、案内が小松、そしてホーム監視が純子という布陣であった。 「こまっちゃんはGW、予定あるの?」 「私はないよぅ。どうせお仕事だし、休暇とって計画立てるのもかったるいの」 「お休み重なったら、二人で温泉とか行きたいねこまっちゃん」 大豊はずいっと小松に身を寄せた。小松よりも一回り小柄なこの駅員は、たいへん発育のいい胸元を彼女に押し付け熱い上目遣いの視線を送った。小松は唾をごくりと飲み込んだ。 「はぁう、こりゃまたとんでもなく育ちましたね奥さぁん」 「ねね、こまっちゃん。私まだこの島のこと知らないことだらけなの。もっともっと教えてほしいな。島のみんなこと、こまっちゃんのこと・・・・・・」 「落ち着いてください、ダメですいけません奥さん。六谷さんに聞かれてますぅ・・・・・・」 事務室で大型のうちわをばさばさ仰ぎながら、純子は顔を真っ赤にして口を結んでいる。 反対番の大豊が危険人物だという情報は、間違ってなかった。業務引継ぎのとき同期の愛甲しのぶが、何度か困惑しながら相談を持ちかけてきたことを思い起こす。 「しのちゃんもまた、変わり者の面倒見せられてんだなぁ」 時計を見る。お昼まで一時間ある。今日は適当にうどんでも作るか、と純子は思った。 帰省輸送はひとまず落ち着いた。数日後にはどいつもこいつも沈鬱な顔して帰ってくるんだぞ、と純子は小松に冗談交じりに語っていた。 泊まりのさい深夜アニメに夢中になっていた小松は、睡眠欲に半ば打ち負かされた状態でこっくりこっくりよだれを垂らしつつ、改札にいた。そんな彼女に純子がこう話しかけた。 「小松ぅ。今日の明けは何か予定あるかい?」 「うへぇ? 何もないですよぅ?」 「ウチ来るかい? 連休中だから妹たちみんないるぞ。晩飯ぐらいごちそうしてやるよ」 「ろ、六谷さんのご実家にですかぁ!」 ぐるんとオフィスチェアをぶん回し、小松は振り向く。今朝は派手に寝坊したため化粧もしておらず、潤いがあってチャームポイントである黒髪も、適当に結んだだけでぼさぼさだ。 「おうよ。指導してる後輩ぐらい、可愛がってやれんでどうするよ」 「ありがとうございます六谷さぁん、愛してますロケットおっぱい!」 まるで仏像を拝むような感謝の視線で、小松は純子にぺこぺこ頭を下げていた。 そんな彼女のことを、すでに出勤していた大豊美歩が休憩室の陰から「こまっちゃんの浮気者ぉ・・・・・・」とぶるぶる震えて泣いていた。 「これがウチだ」 「六谷さんあなたは何を言っているんですか?」 「これがウチだと言っている」 「マジですか」 「マジだ」 「うへぇぁあああぁああぁああ~~~~~~」 泊まりのための荷物が入ったボストンバッグを、その場に落としてしまった。小松はアゴが外れんばかりの叫び声を上げていた。 小松を出迎えたのは、奈良だか京都だか修学旅行で見かけたような寺院のごときつくりをした、立派な六谷邸の正門であった。 「六谷」という表札の文字は非常に変わった字体をしており、小松には「炎口」という文字に見えた。正門をくぐると、野鳥のさえずりすら聞える緑豊かな庭園が広がっているではないか。小松が「なにこれ」と呟くと純子は「庭だよ」と言ってのけた。 砂利道から逸れて小道に入った。どうやら回遊コースまで構築されているようだ。 森林浴に来たわけではないのに、何かこう遠くまでハイキングに来ているようだった。初夏の日差しが微風でさざめく木の葉にさえぎられ、ところどころ透き通った光の線を下ろしている。ちょろちょろと沢まで流れているではないか。 「これ、入場料とか必要ありませんよね?」 「あはは、公園として開放したらさぞ儲かるだろうなぁ?」 純子が六谷邸の解説をする。もともと九州にあった本家の建物を四割ほど移築して双葉島に再現したらしい。1999年の異能者・ラルヴァ急増化や、2001年の双葉学園開校は、六谷家にとってまさに重要な「転機」であった。要するに、異能者一族・六谷家は双葉学園とともに歩んでいきますよという確固たる意思表示のほか何物でもない。 その四割という数字が何を意味しているのか? 小松は六谷家のすさまじさを想像するのを途中でやめていた。ちっぽけな脳みそのなかでその規模が手に負えなくなったからだ。 「どうしてこんなスーパーおぜうさまが駅員なんかやってて、今なお独身でいるんだろ」 「何か言ったか小松ぅ?」 いいえ、何も言ってませんよ六谷さぁん? そうここ数ヶ月で身につけた営業スマイルを純子に向けたときだった。ガルルルルと獰猛さをかもしだす動物の唸り声が耳に入った。 「いらっしゃいませ、ゆうなちゃん。妹の麻耶子です」 小松が声のしたほうを向くと、ウェーブのふんだんにかかった可愛い茶髪の女性が立っていた。純子の両目を優しくした印象だ。高そうで品質のよさそうな薄地の長袖を羽織っており、シックなデザインのロングスカートがふわふわと揺れている。彼女は上品そうに両手を組んでいるが、その手はしっかりと番犬のロープを握っていた。土佐犬との組み合わせが不自然すぎてたまらない。 「初めまして、新入社員の小松ゆうなです。六谷さんにはいつもお世話になってます」 「話に聞いていたとおり、まだまだ初々しい子ですね純子姉?」 「そうだな、まだまだ何もかもが未熟だ。でも一緒にいて楽しい奴だ」 そうですか、と麻耶子は柔らかな笑顔を崩さない。まぶしい日差しにさらされた体をふんわりと包み込み癒す、慈しみに恵まれたそよ風のごとき女性。「でもこの人は絶対そうじゃない。だってこの笑顔はまるで能面みたいだもの」。鋭くも小松は麻耶子という女性を見抜いていた。 「どうぞごゆっくり。では純子姉、わたくしはちょっとこの駄犬を散歩させてきますわ」 「ああ。人様に迷惑かけんなよー」 「うふふ、そんなことになったら厳しく躾けておきますのであしからず」 グルルと雨漏りのようによだれを落とし小松に殺意をむき出しにしていた土佐犬。いきなり真横にロープを引っ張られ首を締め付けられ、「きゃわん」と彼らしからぬ鳴き声を上げた。「さ、行きますわよ。レヴィちゃん」。麻耶子の微笑を認めた瞬間、土佐犬はがたがた震えて引きずられていった。 「あいつの愛犬・レヴィアタン号だ」 「はぁ、そうですかぁ。それにしても綺麗な方ですねぇ」 「まあな。悔しいがあいつは姉妹で一番モテるんだ。今も大学の同期生と交際してるって聞いてるが、多分あいつが一番先に嫁に行っちゃうんだろうな」 「六谷さんにもいいお相手が現れますよ。綺麗ですし、頼りになりますし。大丈夫ですって」 そう不器用ながらもフォローしてやると、純子は「へへ。ありがとな!」と小松に向かって笑顔を示してくれた。 麻耶子と別れたあと、庭園のさらに奥深くへと進んでいく。 ごく普通の一軒屋が小松を出迎えた。庭園のど真ん中にあるにしては意外と地味なものである。それでも駐車場が三台分あったり屋根に煙突がついていたりするので、豪邸の部類に入るのだろう。真新しさを指摘したら、純子はどうしてかきまりの悪そうな顔つきになる。古くなったから建て替えたんだよ、とどこか落ち着かない様子で小松にまくしたてた。 「思っていたよりも落ち着いたおうちですねぇ」 「昔は屋敷も移築するつもりだったらしいが、あんなん絶対落ちつかねえからやめろって幸子と反対したんだ」 「幸子さんも六谷さんの妹さんでしたっけ」 「おっかねーヤツだぞ? 頭悪そうなお前なんか一目見ただけでひっぱたきそうだな」 「ひどぉい・・・・・・どんだけですかぁ」 小松は涙ぐんで非難の視線を純子に向ける。時折純子は小松に対してずけずけと物を言うときがある。純子は玄関の前に立つと、 「おーい、帰ったぞー。鍵開けてくれー」 と二階の窓に向かって言った。すると上のほうから「はーい、今いくわよー」と返ってくる。 声の主はどたどたと階段を駆け下りてきた。じゃりじゃりという、靴を上から踏みつけて砂埃を床にこすりつける音がする。そして赤いめがねをかけた髪の短い子が顔を出した。 「おかえり、純子姉! ・・・・・・この方は?」 「あ、六谷さんの後輩の小松ゆうなと申します」 「へぇ。あなたが、よく純子姉が話をしてくれる小松ゆうなさん」 小松は顔を青くして純子のほうを向いた。どうせこの人は家族にろくな話をしていないはずだと、不審に満ちた視線を送った。 「何だその目は小松。別に悪いことは言ってないぞ。料理の上手で楽しくて可愛げのあるヤツだって、いつも言ってやってる」 「故障した貨物列車を駅まで引っ張ってきたんですって? その話聞いちゃったときはボロボロ泣くまで笑っちゃったわ。ほんと楽しい人ね」 ワナワナワナと小松は怒りに震え、涙目で純子を睨み上げていた。 「こら彩子! まぁ許せ小松、あれはあれで大変だったしな。 あは、あははは!」 純子は小松を彩子に任せ、突然外出をしてしまった。両親が突発的な帰省のため昨日から不在だということがわかり、夕飯の買出しに行かなければならなくなったためである。 「ウチはね、九州に親族がいっぱいいるの。ママもパパも急な呼び出しで飛んでっちゃったんだ」 「そうだったんですかぁ。それにしても大家族なんですねぇ」 「まぁね。あと末っ子に澄子ってのがいるんだけど・・・・・・。スミちゃんもママに連れて行かれちゃったんだ。かわいそう」 自分のベッドに腰かけて、両足をぱたぱたさせながら彩子は言う。足は長く、絶妙的な肉付きをしている。年下なのに体つきはどこか熟れている。黒いニーソックスとミニスカートが織り成す絶対領域の完成度の高さに、小松はなんとなくうらやましさを感じていた。 小松は彩子の部屋に案内されていた。木目も綺麗なデスクは光沢を発し、小さな文具やぬいぐるみが整然と並べられている。カーペットも小さなテーブルも目立った汚れは見られず、よく片付いた女の子の部屋らしい部屋だといえよう。本棚には幼い頃から読み込んでいるのだろう、年季の入った少女漫画がしまってあった。 彩子はピンク色でチェック柄のチェリースカートに、大き目の黒いパーカーを着ていた。私服に関しては可愛くて女の子らしいものを好むようだ。寒がりなのよね、と自嘲ぎみに小松に言う。 (こんなに可愛らしい格好してるのに、何このスーパーおっぱい・・・・・・!) にこにこしている彩子に適度に相槌を打ちながら、小松は彼女の胸を見ていた。黒くて厚手で丈夫なパーカーにも関わらず、純子に匹敵するサイズのバストが、はっきりくっきり形として表れているではないか。 視覚から得られる情報を徹底的にキャッチし、頭の中で予想データをはじき出た。日ごろ運賃の計算は機械任せであるぽんこつ駅員だが、おっぱいが絡むとソロバンもパソコンも真っ青の演算能力を発揮する。 (八十九のEカップ! それでいて将来成長の余地アリ。恐ろしい子!) あれこれ思考や推測を進めながら、小松は唸った。 学校の話とか仕事の話をしていた。小松は昨年まで高等部に通っていたので、だいたいの話題は共有できた。そして仕事の話題では先ほどの仕返しとばかりに、地下駅の下水施設の奥底にてもう何年間放置されていたのかもわからないラルヴァの死骸があって、ゴキブリが数千匹単位で大量発生し、純子が泣き喚き叫びながらキャノンボールをあちらこちらに叩き込んで収拾がつかなくなった大事件を明かしてやった。 「『怖くて眠れないの小松ぅ。カサカサって音がするんだよぉ。私と一緒に寝てお願い・・・・・・』ってね、ぐすぐす泣きながら私を起こしてきたときがあったの。甘えんぼな六谷さんはとっても可愛らしくて女の子してていいですよぅ。揉みここtいや抱き心地も素晴らしかったですぅ」 「いや・・・・・・ゴキブリは・・・・・・私もダメさ・・・・・・ウェッ・・・・・・」 気づけば彩子もがっくり下を向いて黙りこくっていた。ゴキブリの話は失敗だったかと、小松は反省する。 「まぁ純子姉はかっこいいし、それで可愛いとこがあるから私も好き。私ね、純子姉みたいな人になりたいの」 「彩子さんならなれますよぅ。資質はバッチリです!」 小松がそう褒めちぎってやると、彩子はムンと胸を張って「でしょー!」と調子付いた。Eカップがぐんと突き出る。おだて上げるとそうしてくるのは、やはり姉と同じだった。トップバストとアンダーバストを瞬時に目測。記憶する。ぽわぽわした性格とは思えない姑息で巧みな手法で、小松は彩子のおっぱいを暴いていった。 さほど食指は伸びなかったが、麻耶子のバストもなかなかのものであった。このぶんだと末っ子だという澄子も、下手すれば彼女らの母親もとんでもないモノを持っているかもしれない。これはもう純子のもとで仕事をする部下として、彼女らと有意義な関係を構築していくしかあるまい・・・・・・。 「小松さんどうしたのかしら、黙っちゃって。何か退屈させてごめんね?」 「ああいえお構いなく。こちらこそいきなりやってきてしまってすいません」 「駅員さんかぁー。学校の下に電車が走ってたなんて、私も最近知ったの。みんなには見えないところで小松さんは頑張ってるんだね」 「そう言ってもらえると嬉しくて嬉しくて泣いちゃいそうですぅ・・・・・・」 彩子は機嫌よさそうに微笑みながら、テーブルの上のウーロン茶を手に取る。ところが飲み物は中の氷によってとても冷えており、涼しい季節に合わない無数の結露がコップにまとわりついていた。彼女は不注意で手を滑らせてしまった。 「きゃあっ!」 薄透明のウーロン茶が彩子の胸にかかった。コップは豊かな胸元でぽんと跳ね、転がり落ちる。床に衝突する寸前で小松がコップを取ることができたため、どうにか割らずにすんだ。 「うへぁ、大丈夫ですかぁ!」 「大丈夫! あん、冷たぁい。着替えなきゃ」 寒いのが苦手な彩子はすぐさま水を含んだパーカーを脱ぎ、下に着ていた冬物のインナーまでも脱ぎ捨てて足元に放る。そのとき小松に電流走る。Eカップのまさかのお披露目だ。 衝撃を受けた小松は一瞬呆けた顔になって静止したが、すぐに起動。しかしその眼光はそれまでの彼女のものとは違っていた。何か悪魔が降りてきたのを感じ、恍惚を得て自然と口元が緩む。 「拭いてあげますよぅ彩子さぁん」 「え? 別に平気よ小松さ・・・・・・ひゃあ!」 それからが手際よかった。彼女はボストンバッグに未使用の清潔なタオルがあったことを一瞬で思い出し、ジッパーを開け放ち、ほんの数秒で取り出していた。ばっと広げて彩子の背後に回りこみ、真っ白なメロンを連想させる二つの球体を包み込む。否、掴んでしまった。 「ブラジャー、濡れちゃってますねぇ」 手品師のごとく、小松は右手をひらりとぱっと捻る。するとパチンという何かが外れる音がして、ボトリと巨大なブラジャーが落下した。彩子はひ、と軽い悲鳴を上げた。 「ちょっとちょっと! 小松さん!」 とんとん拍子に事が進んでいき、抵抗する猶予すら与えられない。それだけ小松の手順が円滑で、鉄道のダイヤグラムのように緻密で正確で完璧であった。 新米駅員が邪悪な笑みを見せた。それは彩子には決して見えない、勝利を確信した凶悪な笑顔。おっぱいを掴むは、純真で無知だった同期の大豊美歩を陥落させ、上司の純子ですら銭湯でメロメロにした魔性の手。 「失礼しまぁす」 小松の十の指が動いた瞬間。 彩子はこれまで出したことのない熱い艶冶な一息を発していた。 数時間後、六谷家の玄関が賑やかになる。純子が帰宅したのだ。 「ったく。急な呼び出しかと思えば、テメーの頼みごととか。死ねばいいのに」 「そう言わないでくれ幸子。客が来てるんだ。お前の力が必要だったんだ」 「テメーも早く免許取れ。買い物が多いから車よこせだと? しかも料理付き合えだと? 幸子様をこき使いやがって。これで報酬がシケたもんだったらぶっ殺す」 「スイーツ&ベーカリーTANAKAのスイーツで手を打とう。とっておきの名店だ。好きなものをどれだけでも選んでいいぞ」 「・・・・・・よし乗った。チーズケーキ食い尽くしてやるからな。絶対忘れんじゃねーぞ、我が敬愛する糞姉め」 食材が詰め込まれたたくさんのビニール袋を、純子と幸子は協力して台所へと運ぶ。今晩は二人で夕飯を作り、小松にごちそうすることで決定した。じきに彩子も勝手に手伝ってくれるだろうと純子は考えていたのだが。 「やけに静かだなぁ? 歳の近い二人だからてっきりはしゃいでるもんかと」 「いまどきの子は大人びてんだよ。彩子だってもう十七か? いつまでもガキじゃねーよ」 そういもんかねぇ、と納得しがたいような微妙な表情で純子は言う。長い茶髪を全て背中に回し、ゴムで縛る。立てかけてあった六着のエプロンの中から一つを選び、衣服の上から着用した。同じように幸子も調理の支度に入った。 二人は花嫁修業だけはしっかり積んでいるので、料理の腕前は折り紙つきである。それでなかなか貰い手が現れないのは、やはり性格に大きな要因があるのだろう。 「小松ゆうながいんの? 確かテメーがうぜぇほど話題に出した後輩」 「そうだよ、小松が来てるんだよ。幸子はいつも不機嫌ですぐぶん殴ってくるんだぜ、って教えといた。だからお前のことかなり怖がってるよ」 ザックンと鶏肉の塊を包丁で真っ二つにし、幸子は純子を睨みつける。 「オメーよぅ、私を何だと思ってんだ・・・・・・」 けらけら意地悪な笑顔を見せる純子を前に、さらに怒りが積もり積もってきた。幸子は「けっ」と吐き捨ててから、嫌そうに鶏肉の下ごしらえに戻る。 「そりゃあテメーだったら今すぐにでも蹴っ飛ばしてやりてぇぐらいだ。だがな、よその娘さんに乱暴働くほど私も人間未熟じゃねぇんだよ」 そんな幸子の背後に黒い影が接近しつつあった。 小松である。彩子を徹底的にいじくり倒し、今度は調子に乗って純子にイタズラを仕掛ける気だ。彼女は目の前に見える後姿を純子だと思い込んでいた。純子と幸子は小松でも見分けがつかないぐらい容姿が似ている。だから幸子は日ごろ、わざと地味な格好をしている。 「テメーがもたらした風評被害を解消するチャンスだね。むしろ私が小松という子に教えてやんよ。六谷純子という馬鹿姉はだらしのなくて頭の悪い老いぼれの行き遅れだってことをな! 覚悟しやがれ!」 「六谷さぁん、お帰りなさぁい!」 幸子が威勢よく純子に言ったとき、いきなり後ろからぎゅっと胸を掴まれた。エプロンの上から鷲摑みにされてしまった。幸子は背筋をブルっと震わせ、「はぁあん」などと情けのない悲鳴を上げてしまう。 いつものようにグニグニ揉みしだいてから、小松はようやく違和感に気づいた。 「・・・・・・あれぇ? 何かいつもと感触が違う。六谷さんじゃない」 「なぁにしやがるかぁ、このチンチクリンがぁ――――――――――――――ッ」 マグマをはじき飛ばした火山のごとく、幸子は激しい怒りを爆発させる。振り向きざまに拳を振り上げ、純子が食らわすそれ以上の破壊力を秘めたげんこつを小松の脳天に叩き込む。小松はそのまま前のめりに倒れてしまい、両手で頭を押さえながら泣いてしまった。 「うわぁん、本当にぶん殴ったぁ・・・・・・! 痛いよぅひどいよぅ・・・・・・!」 「ンなことされりゃ誰だって怒るだろうが! 馬鹿姉の弟子はやっぱ馬鹿だ!」 「幸子ォ! 何も殴るこたねーだろがよ!」今度は純子が幸子の胸倉を掴み上げる。「小松は確かに馬鹿だがあんなんスキンシップのうちに決まってんだろ! だいいちお前、さっき自分で乱暴しねえって言ってたくせに!」 小松が「バカバカ言わないでくださいよぅ・・・・・・ふぇぇん」と涙を流している。 「おい今スキンシップって言ったな? 何だスキンシップって? さてはテメーら毎晩毎晩変なことやってんじゃねーだろうな!」 「変なことって何だよ! あることないこと言うんじゃないよこの根暗! 便所飯! 幸薄子!」 「ブッ殺す・・・・・・! 今日こそテメーの息の根を止める・・・・・・!」 幸子の後ろ髪が揺らめいて浮き上がる。結わえていたゴムがピッと途切れ、いよいよ怒髪天を付く。 次の瞬間、築一ヶ月の真新しい家屋が爆ぜた。 薄い藍色の空に、木の葉の陰が際立っている。冷たく乾いた風に揺られ、左右に細かく動いていた。 ほの暗い道を麻耶子は一人歩いていた。口元をきゅっと結び、口角のみを吊り上げた彼女らしい微笑。頬には血液が付着していた。 異様なのはそれだけではない。衣服、特にロングスカートに無数の切れ込みが入り、同じように何者かの血しぶきが浴びせられていた。両方の握りこぶしが真っ赤だ。不審な有様ではあるが、麻耶子はいつもの笑顔を絶やさなかった。 「やっぱり浮気をしていたなんて。くす。私ったら馬鹿な女・・・・・・」 レヴィアタン号を散歩に連れていたその道中、交際中の男子学生が見知らぬ女と公園で語り合っているのを目撃した。女が彼を自分の部屋に連れ込んだところまで麻耶子は尾行し、熱く抱き合っていたところを乱入してきたのだ。 「浮気物は半殺し。浮気相手はなぶり殺し。うふふふふふ」 夜道に靴音を響かせる麻耶子。そんな彼女と不自然な間隔を保ち、愛犬がひどく怯えた様子でてこてこ付いてきている。麻耶子は土佐犬を牽引していなかった。常識外れのとんでもない行為ではあるが、レヴィアタン号は尻尾を丸め、まるでウサギのように縮こまっており、人様を強襲する可能性はほとんど無いように伺える。 六谷家の正門をくぐると閉門する轟音が上がった。存在を忘れられ表に放り出された状態となったレヴィアタン号は、きゃうんきゃうんと門を叩いて悲しそうに飼い主を呼んでいた。 部屋に乱入したのち麻耶子は相手女性と壮絶な殺し合いを開始した。相手も屈強で意地っ張りで負けず嫌いで執念深い異能者の女だった。あまりの恐怖に失神してしまった軟弱な男を放置して、二人は日が暮れるまで拳を交えあった。 真っ暗な庭園を歩いていたところ、焦げ臭い匂いが麻耶子の足を止める。 異変を察知し先を急ぐ。そして彼女が見たものは、全焼してしまい墨と化した、新築の六谷邸の残骸であった。 「な、何ですのこれ・・・・・・?」 柱が一本根元から折れて、粉々に崩れ落ちる。跡形もなくなった豪邸の前で、今なおタイマン勝負を続けている長女と次女の姿があった。 「どうしたぁ・・・・・・。もう立てないのか弱虫幸子ォ・・・・・・」 「テメーもめっちゃ肩上がってんじゃねえか。衰えたな行き遅れェ・・・・・・」 「くたばれェ――ッ!」と二人は同時に咆哮し、真っ向からぶつかり合った。 「うわぁあああん、もういいですぅ! 闘うの止めてくださぁい! お家に帰してくださぁい~~~!」 来客であるはずの小松ゆうなが、地面に座り込んでわんわん泣いている。二人は全く彼女に目もくれず、再び苛烈な異能勝負を繰り広げた。 老朽化したから家を建て替えた、というのは純子のウソだ。彼女はたびたびこうして幸子と喧嘩をし、家を異能で燃やしてしまうのだ。一ヶ月前も純子の見合い話が破談になったことに関して幸子が冷やかしを入れたため、純子がキレてそれまでの家を全壊させてしまった。 「あ、麻耶子さぁん」小松は麻耶子の存在に気づくと、すぐにその胸に飛び込む。「私のせいで二人が大喧嘩始めちゃいましたぁ。怖いよう助けてぇ・・・・・・!」 「・・・・・・もう平気よ、ゆうなちゃん」 麻耶子の落ち着いていて、しっとりした声質のささやき。小松は安心し、ようやく笑顔になれた。泣きはらした両目を拭い優しい彼女の顔を見る。 「めんどくさいのはみんな焼いちゃうから。駄目な男も、駄目な姉さま方も。うふふ。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」 彼女はうっすら半目を開けて笑っていた。麻耶子の初めて見せた、狂気に満ち溢れた表情。いつも無邪気で元気な小松の顔が、恐怖に歪んだ。 「『ネイパーム・ビート』。鬱陶しいのは油まみれになって燃えちゃえ。FIRE♪」 麻耶子の右手にオレンジ色の発光体が具現した。それは真上へと打ち上げられ、それから二十発ほどのナパーム弾があたかもピッチングマシーンの得意とする滑らかな動作のように、軽々と夜空に向かって放たれていった。 「忘れてた。彩子さん縄で縛ったままだった・・・・・・」 小松の苦笑にも似た空しい笑顔が、閃光に包まれゆく・・・・・・。 数秒後、六谷邸は広大な庭園を含めて双葉島から消滅したのであった。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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【名前】八田モンキー 【性別】雄 【武器】バナナ 【攻撃力】8 【防御力】8 【体力】1 【精神力】0 【さりげなさ(フリースキル)】13 【特殊能力名】ポイ捨て(30%) 【特殊能力説明】 任意の空白のマスにバナナの皮をポイ捨てする(トラップを仕掛ける)。 そのマスを踏んだキャラクターは滑って即死。一度しか使えないし、一度しかトラップは発動しない。 使えば攻撃力が0になるかわりに、体力が8になる。 武器であるバナナの中身を食べてしまうかわりに、お腹が膨れるからである。 【キャラクターの説明】 幼いとき、自分をイジめていたガキ大将にバナナトラップを仕掛けるも、そのガキ大将はバナナの皮を踏んだはいいが、コントのようにずっこけたりはしなかった。 それどころか、そのことがバレた八田モンキーは逆にボコボコにされてしまう。 その後、悲しみと憎しみに悶えた末、彼は魔人へと覚醒したのであった。 それ以来、彼が捨てたバナナの皮を踏んだ者は、「どうしてこんなところにバナナの皮が!」と叫びながらずっこけた後、例外なく即死する。
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【モチーフ】:双六盤(人生ゲーム)+鯉+鯉のぼり+恋心 【能力】: 想いを揺り起こす程度の能力(対象の恋心を暴走させる。この能力を受けた者は元々僅かながら意識していた相手に病的な恋心を抱いてしまう。) 【上司】:奇跡室長 東風谷早苗 【好物】:ハンバーガー、フライドチキン 【苦手】:納豆 【解説】 早苗が双六盤にミラクルパワーを注いで生み出した奇跡獣。 双六を全身に張り巡らせたかのような姿をした鯉の怪人で、頭にはラブマークが付いている。 大空翠と射命丸文、そして若鷺比瑪子に自らの能力を浴びせ、彼女らがリムグラースであるチルノを見るなり恋心が暴走して追い回した状況を楽しんでいる。 味をしめたコイスゴロー自身は高みの見物と洒落込み、他の場所でも次々と恋心を暴走させた。 しかし結局怒り心頭のグラースにボコボコにされた後に吹っ飛ばされた。 敗北後に奇跡団アジトに帰って来たコイスゴローはなぜか奇跡獣士へと進化して幹部の仲間入りを果たした。